深刻な首都圏のホール不足の背景にある「文化行政」の救いようのない低レベル
決定的に不足している首都圏のホール
今後、深刻な影響が懸念されているのは、本格的なバレエやオペラの公演を行える、上野駅前の東京文化会館(東京都台東区)の長期休館である。1961年の開館から60年以上が経過し、施設全体が経年劣化したため、2026年5月7日から2028年度中(予定)まで休館して、大規模な改修工事を行うという。
東京文化会館の大ホールは客席数が2,303。一般に6割を超えれば悪くないといわれる稼働率が、この大ホールは94%で、ほぼ毎日、バレエやオペラの公演、クラシック音楽のコンサートなどが行われている。舞台やバックヤードが広く、バレエやオペラを上演しやすいうえに音響がよく、しかも低料金で借りられるので、主催者にも観客にも人気が高い。
この大ホールでは、2025年10月にもウィーン国立歌劇場の日本公演が行われたが、欧米の芸術であるバレエやオペラは、欧米の芸術団体を招聘しての公演が提供されることも多い。その場合、莫大な経費を要するため、入場料を抑えるためにも2,000席以上はほしいとされる。一方、広すぎても鑑賞に支障が生じる。その点で、東京文化会館大ホールほど相応しいホールはほかにない。
じつは首都圏には、こうした舞台と舞台機構が備わっているホールや劇場が決定的に不足している。だから、東京文化会館の休館が痛手なのだが、改修時期もまた問題である。同規模で、やはり舞台や舞台機構を備えていた神奈川県民ホール(横浜市中区)は、すでに2025年3月末で休館し、建て替えの方針は打ち出されているが、時期や規模等は決まっていない。Bunkamura オーチャードホールは、東急百貨店本店跡地の再開発に合わせて、少なくとも2027年度までは日曜と祝日中心の営業になっている。
ほかにバレエやオペラを上演できる劇場としては、横須賀芸術劇場は2024年7月から2026年8月まで休館中で、ティアラこうとう(東京都江東区)も、2025年11月から2027年9月まで休館になる。
文化を危機に追い込む文化行政
東京文化会館は都立のホールで、東京都生活文化スポーツ局が所管し、指定管理制度のもとづき、東京都歴史文化財団が管理および運営している。つまり、東京都の文化行政によって管理されている。前述したように文化行政は、どこにどんなホールがあり、それらを全体としてどう管理し、運営していくべきか、ということを考える主体であるべきだ。
そうであるなら、バレエやオペラを行える劇場が都内、または首都圏にどう分布しているかを把握し、それらの改修計画等を調査し、ホールや劇場の休館時期が重ならないように調整する必要があったのではないか。バレエやオペラなどの舞台芸術における東京文化会館の、代替が利かないほどの大きな役割を認識していれば、当然、調整したであろうし、あるいは欧米のように代替の劇場を用意しただろう。
ところが、そうしたことをまったく行わずに一方的に長期休館を決めたのは、公演する場所を失うバレエやオペラなどの舞台芸術にあたえる影響を考えると、暴挙という言葉が浮かぶ。しかも、休館時期が2026年5月からに決まった事情には呆れざるをえない。同様に東京都生活文化スポーツ局が所管し、指定管理制度のもとづき、東京都歴史文化財団が管理、運営している江戸東京博物館の大規模改修工事が2026年春に終わるからだというのだ。
それは単に組織内部の事情で、東京文化会館がどのような文化シーンにおいてどのような役割を果たしているか、という考察のあとはない。結果として、文化を育てるべき文化行政が、結果として文化が育つ芽を摘んでしまい、危機にさえ追い込んでいる。
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