「ドスンと首に衝撃が。手をやると矢が貫通していて…」4名殺傷でも無期懲役の「ボーガン殺人」 生存者が語った「残虐犯行」の一部始終
2020年、兵庫県宝塚市の住宅においてボーガン(クロスボウ)を撃ち、家族3人を殺害。親族1人に重傷を負わせ、殺人罪などで起訴された野津英滉(ひであき・28)被告の裁判員裁判が9月25日から神戸地裁で開かれた。10月31日の判決公判で松田道別裁判長は野津被告に無期懲役の刑を言い渡した(求刑死刑)。
家族との関係に不満を抱えている場合、自分の心と身体を守るために物理的な距離を置くこともあれば、理解を求めようとして、自分の抱えている思いを家族に伝えることもあるだろう。だが、野津被告は家族の命を奪うという最悪の道を選んだ。以下は、この裁判の傍聴レポートである。
【前中後編の前編】
【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
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4名にボーガンを放つ
彼がボーガンを手に家族殺傷事件を起こしたのは、今から5年前の2020年6月4日。早朝5時にトイレに起きた祖母の好美(よしみ)さん(75=当時)の側頭部めがけて矢を放ったのを皮切りに、次に起きた弟、英志(ひでゆき)さん(22=同)が洗面所に立ったところ、その側頭部を狙い矢を発射。即死しなかったことから、さらにもう一度矢を放ち絶命させた。
犯行はここで終わらなかった。続けて電話で呼び寄せた伯母(55)の側頭部を狙おうとしたが、伯母はヘルメットをしていたことから首付近を狙い発射。矢は頸部に命中した。続けて「早く来い」と呼び寄せていた母親、マユミさん(47=当時。【中編】で記す家庭事情があり、被告とは別居していた)が玄関から入ってくると、祖母や弟と同じように側頭部めがけてボーガンを発射し殺害した。
事件後、出頭することを予定していた被告だったが、伯母が近隣に助けを求めたことから110番通報を受けた警察が駆けつけ、自宅で現行犯逮捕されている。
同居していた家族2人に加え、別居中の母親も殺害。さらには伯母にも重傷を負わせた野津被告はなぜ事件を起こしたのか。それが本人の口から語られるはずの裁判員裁判は本来2022年に予定されていたが、被告の心身の不調により期日が取り消されていた。事件から5年が経ち、殺害に至るまでの家族関係や被告の思いがようやく明らかになった。
祖母の遺体は移動
法廷に現れた野津被告は紺色のジャージとマスクを着用。坊主頭をほぼ直角に下げ、頭が胸にめり込みそうな姿勢でよちよちと歩き弁護人の隣に座った。罪状認否において「起訴状に間違っているところはありませんか」と裁判長に問われ「……いいえ」と答える声が異様にくぐもっていたのはその姿勢も影響しているのか。弁護人は、野津被告が事件当時、心神耗弱の状態にあったとして減刑を求めていた。
裁判では事件現場の状況が明らかになった。その犯行態様は凄惨な一方で、奇妙さをも感じさせるものだった。殺害された祖母、母親、弟の側頭部に刺さった矢はいずれも貫通しており、洗面所で撃たれた祖母は、自室のベッド下まで運ばれていた。母親はリビングと台所のあたりで仰向けに倒れ、洗面所で二度撃たれた弟は、そのフローリングの床上に仰向けに倒れていた。そして3人の足元には塩と見られる白い粉末が盛られていたり、散らばっていたりした。祖母の遺体を移動させたのは、弟に自身の計画を勘付かれないようにするためだったという。
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