信頼していた先輩は「フレネミー」だった 策略で職を失い…怒れる恋人が仕掛けた恐ろしい復讐策とは【川奈まり子の百物語】

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縁切り祈願

 2日後、勇気を奮って出勤すると、昌彦さんは自分が発案した企画から外されていた。

 しかも、AとB子のいるチームがそれを担当すると知り、彼は絶望して、結局は会社を辞め、転職するに至った。

 こうした顛末に、昌彦さんの婚約者は彼以上に激しく憤った。
 
“辞めた会社に乗り込んで真相をブチまける”と息巻く彼女を、昌彦さんは必死でなだめた。

「証拠が何も無いし、僕は結婚を目前に控えて失業するわけにはいかないと思って、新しい職場になじむために必死でしたから。彼女については、こんなに正義感が強い人だったのか、と驚きました。ふだんはおとなしくて、とても穏やかな女性なんです。怒らせると怖いタイプだったんだと思いましたよ。彼女は、弁護士を雇ったらなんとかならないかと言いましたが、そんなことをしても時間の無駄になるだけでしょう……」

 彼は、もう何もするなと彼女を諭した。

 すると彼女は「泣き寝入りはさせないから」と涙目で応えたのであった。

 この昌彦さんの婚約者は、東京生まれ東京育ち。経歴にもとくに変わったところはなく、一見ごくふつうのお嬢さんだったが、父方の祖父が寺の住職で、母方の親族には神社の宮司がいて、母方の祖母は強い霊感の持ち主だったという。

 そのため、彼女はかねて精神世界に強く関心を寄せていた。呪術の本なども愛読していたので、このとき、昌彦さんは半ば冗談、半ばは本気で、「人を呪わば穴二つって言うんだから、Aさんを呪い殺そうとしないでよ?」と言ったとか……。

 しかし、彼女はあきらめていなかったのである。

 それから間もなく、彼女は「AとB子の縁切り祈願をした」と、都内某所の神社に行ってきた旨を昌彦さんに報告した。
 
 その2人はグルに決まっている、というのが彼女の見解だった。さらに、「Aさんは半分本当のことを言っていたんじゃないの?」――つまり、B子が複数の男性社員と関係していたのは事実だったのではないか、と。

 さらに言い寄られて困っているというのはAの嘘で、Aもその女と肉体関係を持ったうちの1人だったのでは……と婚約者は昌彦さんに言ったそうだ。実は彼をインタビューしながら私もそんな気がしていた。

 もちろん憶測に過ぎないが、だとしたら、昌彦さんを容易に罠に嵌められるではないか……。

 ***

 A先輩の謀略により退職に追い込まれた昌彦さん。その恨みを晴らすべく、婚約者は復讐に燃えて……。【記事後編】では、そこから起きた重すぎる出来事に迫る。

川奈まり子(かわな まりこ)
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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