フジテレビ、2ドラマで致命的ミス “時代錯誤”の脚本に若い視聴者はついていけない

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ユーミンと北村の是非

 もっとも、1972年にデビューしたユーミンが生活の一部になっているコアなファン世代は、50代以上だろう。「やさしさに包まれたなら」などを荒井由実の名義で歌ったユーミンの出現に強い衝撃を受けたのは60代半ば以上である。

 10代~30代はユーミンをシンボル的な存在とする「小さい頃は、神様がいて」に親近感がわかないのではないか。今の若者に人気のFRUITS ZIPPERやHANAを50代以上が見聞きしたとき、戸惑いがちなのと同じである。

 この物語には北村有起哉(51)が演じる主人公の小倉渉、仲間由紀恵(45)が扮する妻・あん、同じマンションに住み、草刈正雄(73)が演じる永島慎一、その妻で阿川佐和子(71)扮する妻・さとこ、やはり同じマンションの住人で小野花梨(27)が演じる樋口奈央、石井杏奈(27)が扮するそのパートナー・高村志保が登場する。

 この3組はよく集まり、さまざまなことを話し合う。集団によるしゃべくりドラマである。集まる合間にそれぞれの日常が展開する。

 もうお気づきの方は多いだろう。同じ岡田氏が書き、やはりフジが放送した春ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」と大枠のフォーマットが一緒なのである。

 岡田氏が得意とする設定とはいえ、両作品が続けざまに放送されたのは、プラスではなかったのではないか。タイプが共通するドラマを、間を置かずに流すと、視聴者側に「またか」という思いが生まれてしまう。

 一方、北村は誰もが認める名優だが、地上波のプライム帯(午後7~同11時)での主演は初めて。

 これまではNHK大河ドラマ「八重の桜」(2013年)で元会津藩士の大秀才・秋月悌次郎、テレビ東京「駐在刑事」(2014年)ではみ出し警官(寺島進)に手を焼くエリート警視などを演じてきた。実直で誠実な男の役が圧倒的に多かった。

 だが、このドラマはホームコメディという触れ込み。北村にもコミカルな演技を要求している。第3回では渉(北村)が号泣しながらラジオ体操に参加し、あんが望む離婚を受け入れた。笑わせようとしたシーンに違いない。

 北村のこの演技は絶品だったものの、笑えなかった。どんな名優にも向く役、向かない役がある。たとえば放送中のTBS「ザ・ロイヤルファミリー」で準主人公の山王耕造を演じている佐藤浩市(64)はワイルドな男の役柄ばかり。ひょうきん者や狡猾な男はやらないし、向いてない。北村の渉役ははたして合っているのだろうか。

 北村の実父・北村和夫さんも名優だった。やはり実直で誠実な男の役が大半。しかも助演が中心だった。所属していた文学座の大看板・杉村春子さんによく相手役として指名された。俳優の評価には主演か助演か、どんな役柄を演じるかは無関係なのである。

 放送時の視聴率もドラマの最終的な評価と別問題。高倉健さんの唯一の連ドラ主演作で、巨匠・倉本聰氏(90)が脚本を書いたTBS「あにき」(1977年)も低視聴率だった。

 当時の死守ラインである世帯視聴率10%を大きく割り込んだ。共演陣も倍賞千恵子(84)、田中邦衛さんら豪華版だったので、同局は慌てた。もっとも、何度か再放送されるうち、評価は変わっていく。今では昭和の最高傑作ドラマに推す人も多い。

「もしがく」と「小さい頃は、神様がいて」への評価も変わるだろうか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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