令和の「あまちゃん」の声も聞こえてきた 朝ドラ「ばけばけ」は大化けするのか

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高まる評判、あの名作と肩を並べるか

 映画とドラマを長く担当する大手芸能プロダクションの幹部は「これは令和の『あまちゃん』(2013年度上期)に化けるかも知れないね」と言い始めた。朝ドラの潮流を変えるヒット作になる可能性が出てきたということである。

 たしかに笑いと涙の作風は両作品に共通する。底流に骨太のテーマがあるところも同じ。振り返ると、「あまちゃん」のテーマにも多様性と共生が含まれていた。アイドルや海女などさまざまな生き方を認め、仲間や地域コミュニティが支え合う意義を説いた。

 両作品に一致する点はまだある。のん(32)も高石も放送開始前までの知名度は今一つだった。それが新鮮さにつながった。脚本の宮藤官九郎氏(55)もふじき氏も朝ドラの脚本は初めてだから、ともに書きぶりが斬新。主題歌を大物アーチストに頼らなかったところも同じ。さて、どうなるか。

 吉沢が演じている錦織はヘブンに気に入られる。伏線は第20回の錦織の言葉にあった。東京・本郷の下宿で宴が開かれ、余興をやろうということになったシーンだ。

 トキが嬉々として怪談を披露しようとすると、松江出身の帝大生・根岸(北野秀気)が、「錦織さんは大変な怖がりだから……」と止めた。

 これに錦織は「やめろ、嘘は!」と語気を強めた。

 本当は怪談が古臭くて非科学的だから嫌いなのだ。根岸はトキを傷つけまいと嘘を吐いたのだが、それも錦織は許せぬというのだから、頑固なまでの正直者である。嘘吐き嫌いの八雲をモデルとするヘブンから気に入られるのもうなずける。

 八雲は松江中で西田と出会ったことを子供のように喜んだ。「利口と、親切と、よく事を知る。少しも卑怯者の心、ありません。私の悪い事、みな言ってくれます」(『思い出の記』)。八雲と西田が松江で一緒に過ごしたのは僅か約1年半弱だが、一生の友になる。

 西田は八雲の取材活動や資料収集において一番の協力者となった。八雲とセツの仲人も務めた。西田をモデルとする錦織もやがてその立場になるのではないか。怪談嫌いは返上だろう。

 西田は松江一の秀才と呼ばれながら、貧しさゆえ、中学中退を余儀なくされた。錦織もそう。2人は独学で超難関の中学教師認定試験を突破し、やっと日の当たる場所に出た。だが、長年の無理が祟ったのか、西田は34歳で亡くなる。結核だった。1897(明30)年のことだ。

 その後、八雲は東京でセツに「西田さんの後ろ姿、見ました」(『思い出の記』)と言った。車で追い掛けたという。親など大事な人を失ったとき、他人が亡くなった人に見えてしまうことがある。それと一緒だろう。八雲は心底、西田が好きだった。

 吉沢が西田をモデルとする錦織を演じると発表されたとき、「どうして今さら助演を」と訝しむ声もあった。だが、錦織役は途方もないくらいに良い役なのである。好漢なのだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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