「慢性的に疲れている人」は43%も… 脳と免疫の長生き健康術

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 日本人研究者がノーベル賞を受賞したことで再び注目を集めている「免疫」。ウイルスなどと戦ってくれる身体に備わったシステムというイメージが強いが、実は「脳」とも大きく関係しているという。人生100年時代に役立つ、「脳と免疫」の新・健康情報を紹介する。【毛内 拡/お茶の水女子大学助教】

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 病は気から。

 脳の研究をしている学者の一人として、古くから伝わるこのことわざは真理を突いていると思います。

 気持ちがたるんでいるから体調を崩すのだ、気合いさえあれば病気なんて吹っ飛んでいく――。病は気からというと、このような根性論をイメージする人もいるかもしれません。しかし、私が指摘したいのはそういう話ではありません。

「気=精神」、すなわち「脳」の働きに不調が起きれば、身体に影響を及ぼす。例えば、うつで「気=脳の状態」が不調の人は、痛みをより感じやすくなったり、風邪をひきやすくなったりします。なぜなら、脳と身体全体の免疫は相互に影響し合っているからです。これを脳-免疫相関と言います。相関しているということは、例えば高齢読者が特に気になるであろう認知症についても、“脳だけ”の問題ではなく、身体全体の免疫の不具合によってもたらされる可能性が考えられるのです。

 いずれにしても、病は気からということわざは、脳研究の観点から「科学的に正しい」といえます。

〈こう説くのは、博士(理学)で、脳の免疫機能などを担うグリア細胞について主に研究を続けている、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教の毛内拡(もうないひろむ)氏だ。

 その名も『脳と免疫の謎』というタイトルの著書がある毛内氏が続ける。〉

「身体→脳」で影響を及ぼす流れも

 脳は身体の中でも特別な部位である。そうイメージしている人も多いと思います。確かに、私たちの身体の司令塔である脳は、グリア細胞からなる独自の免疫系(免疫システム)で特別に守られています。血液脳関門と呼ばれる鉄壁の守りにより、他の臓器から影響を受けにくいように保護されているのです。これを脳の免疫特権と言います。

 このように脳は「特別」でありながらも、一方、近年の研究で「完全に特別」というわけではないことが明らかになってきています。司令塔である脳から身体の各部位に命令が届けられる「脳→身体」の一方通行ではなく、他の臓器の炎症が脳に関係する、つまり「身体→脳」という流れで影響を及ぼす場合もあることが分かってきたのです。

 具体的な例で見てみます。最近、歯周病を放っておくと認知症になりやすいことが指摘されています。これも脳-免疫相関で説明が可能です。歯周病とは、口腔内で何らかの慢性的な炎症が起きている状態といえます。口腔内で悪さをしているその炎症性物質が、脳-免疫相関によってグリア細胞の働きを低下させ、メンタルを不調に陥らせたり、ひいては認知症の要因の一つになったりすると考えられるのです。

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