「慢性的に疲れている人」は43%も… 脳と免疫の長生き健康術

ドクター新潮 ライフ

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43%が「慢性的に疲れている」

 実は、脳-免疫相関をあまり難しく捉える必要はないのかもしれません。「腸(はらわた)が煮えくり返る」、あるいは「五臓六腑に染み渡る」といった表現があります。「気持ち=脳」の動きを「内臓」を使って表しているわけですが、私たちにとって、脳と身体が相互に影響し合っているという感覚は、意外と身近なものといえるのではないでしょうか。

 もう一つ脳-免疫相関の具体的な例を挙げておきましょう。コロナ禍では、感染後、一定期間がたつと咳や高熱などの症状は治まるものの、頭がボーッとする状態がずっと続く「ブレインフォグ」が問題になりました。本来、呼吸器などに大きな害を与えるはずの新型コロナウイルスが、なぜ頭(=脳)に影響を及ぼすのか。この問題も、やはり脳-免疫相関で説明が可能なのです。

 続いては、日々の生活で私たちを悩ませている「疲労」について、免疫が健全に働かないことによる「脳細胞の炎症」という観点から分析してみたいと思います。

 一般社団法人日本リカバリ―協会の調査によると、2020年に「自分は元気だ」と答えた人は17.7%だったのに対し、「慢性的に疲れている」と回答した人は43.1%にも達しています。忙しく、ストレスフルな現代人にとって、やはり疲労は健康上の大きな問題なのです。

「加齢」と「老化」の違いとは?

 では、そもそも疲労とは何でしょうか。21年、スウェーデンのヨーテボリ大学の研究者らは、新たに定義した「13の疲労」を提案しています。一口に疲労と言っても、実にさまざまな種類があるわけですが、ここでは大雑把に「肉体的疲労」と「精神的疲労」に分けて話を進めていきたいと思います。

 身体を酷使して筋肉が疲労している。このような肉体的疲労は、マッサージをしたり、入浴したりすればリカバリーが可能です。

 他方、精神的疲労はどうでしょうか。精神、つまり脳の疲労は、脳が慢性的な炎症を起こしている状態といえます。筋肉の炎症とは違って、入浴やマッサージではリカバリーできません。

 では、脳の炎症はどうすれば抑えられるのでしょうか。ここでいったん、「加齢」と「老化」の違いについて考えてみましょう。

 加齢は、まさに齢(よわい)を重ねていくという物理的な現象ですから抗うことは不可能です。一方、老化はどうか。私は、老化とはいわば「脳という臓器の疾病」と捉えています。

 ハーバード公衆衛生大学院が米国人の50歳以上約1万4000人を対象に行った調査研究によると、自分の老化に対する満足度が高い人は、低い人と比較した場合、あらゆる原因での死亡リスクが最大で43%も下がることが明らかになっています。年を取ることに伴う衰えと上手に付き合っている人ほど健康であり、老けにくいといえるわけです。つまり老化は、物理的な加齢とは違って認知的なものであり、気の持ちよう、すなわち“脳の若さを保つ=脳という臓器を疾病状態に陥らせない”ことで抗うことが可能なのです。

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