「慢性的に疲れている人」は43%も… 脳と免疫の長生き健康術

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BOOCS法

 そう言われても、そもそも新奇体験に足を踏み出す気力が湧いてこない……。そんな人にお勧めなのが、脳疲労研究の大家として知られる、九州大学の藤野武彦名誉教授が提唱している「BOOCS(ブックス)法」です。これは、脳が疲労し切っている人でも、簡便に取り組める脳疲労の癒やしテクニックです。

 BOOCS法には二つの原理と三つの原則があります。まず原理ですが、一つは「禁止を禁止する」。自分で自分を禁止する(制限をかける)ことを極力避けるのです。これによって脳へのストレス軽減を目指します。もう一つの原理は「快」。自分にとって快いと感じられることに取り組み、ポジティブな感情を生み出していくことが目的です。

 これらの原理に基づいた三つの原則は以下の通りです。

・健康に良いとされることであっても、イヤならばやらない。

・健康に悪いとされることでも、それが好きでやめられない場合はとりあえずそのまま続ける。

・健康に良く、自分が好きなことをまずは一つでも始めてみる。

脳細胞の「膜」を柔らかく

 実に取り組みやすそうなこの三原則を実践することで、少しずつ脳疲労が改善されていき、ポジティブになってドパ活などにも取り組めるようになるはずです。実際、BOOCS法によって、健康診断の数値が良くなったり、ダイエットに成功したりという成果が出たとの結果が報告されています。

 その他、食事に関して言うと、脳の炎症を防ぐためには、いずれも抗炎症作用を持つ、リコピンが豊富なトマトや、スルフォラファンが多く含まれるブロッコリー、カテキンが豊富な緑茶などの積極的な摂取を心がけましょう。またサケ、サバ、イワシなどに豊富なオメガ3脂肪酸は、脂でできている脳細胞の「膜」を柔らかくするのに効果を発揮します。膜が柔らかくなると、集中力や積極性を高めることにつながる神経伝達物質のノルアドレナリンなどを、適切に受け取ることができるようになります。

 最後に、脳の健康のためにいますぐ実践すべきこととして私が推している、ある生活習慣の改善を紹介したいと思います。それは「スマートフォンなどのプッシュ通知システムを切る」です。

 結局のところ、脳にとって何が一番ストレスになるかといえば、自分がやろうとしていたこと、あるいはやりたいことの強制的な遮断です。自分がご飯を食べようと思った矢先に、乳幼児が泣き始めて食事の中断を余儀なくされた。子育て中にそんな経験をした人も多いと思いますが、かわいいわが子であっても相当なストレスに感じたはずです。「強制的遮断」がいかに脳に負担をかけているかが分かるのではないでしょうか。

 スマホやパソコンのプッシュ通知システムをオンにしていると、メールやLINEのメッセージが届いた時に自動的に通知され、気になってチェックせざるを得なくなり、強制的に集中を遮断されます。これを繰り返すと脳はかなりの疲労を強いられます。しかも、メールを開けてみたらもう何年も行っていない店からの「5%オフのクーポン」などという全く緊急性のない内容だったりする……。一度遮断された集中力を取り戻すのには23分かかるといわれていますので、生産性の面においてもプッシュ通知システムは大きなロスをもたらしているといえます。

 繰り返しになりますが、脳-免疫相関の観点からも、脳の働きを阻害しないことが健康長寿のためには極めて重要です。ただでさえ情報過多な現代、私たちには「5%オフのクーポン」に集中力を奪われ、脳を疲弊させている余裕などないのです。

毛内 拡(もうないひろむ)
お茶の水女子大学助教。1984年生まれ。東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。専門は神経科学。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年より現職。『脳と免疫の謎』などの著書がある。

週刊新潮 2025年10月23日号掲載

特別読物「『病は気から』は科学的に正しかった――『脳』と『免疫』の長生き健康術」より

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