わずか7分で「155億円」の甚大被害…「ルーブル美術館」強盗犯が狙った「開館直後」という警備の死角 「ピンクパンサーが関与」の声も

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華麗なる盗人

 前出の山田氏はこう見る。

「開館直後に2階の窓を破って侵入、犯行時間は7分とのことですが、館内で盗む実行行為にかかった時間は4分という短時間で行ったため、発覚に時間がかかったと見られています。警報を覚知し、警備員が現場に駆け付けた時には、すでに館外に逃げていたとのことで、このあたりの時間も巧妙に計算した、きわめて用意周到な犯行でした。ハイテク警備は夜間に集中し、開館から間もない時間帯は、警備員は来館者対応に追われる……まさにその時を狙ったのです」

 強盗事件を専門に捜査していた元警視庁捜査第1課員によると、店や銀行など、強盗被害に対して最も警戒が必要なのは「開店後と閉店後」だという。開店後は準備の慌ただしさも残る中で、来店者への対応もある。閉店直後は安ど感から気が緩み、キャッシュレスが進んでいるとはいえ、レジや金庫にはその日の売り上げがある。強盗はそうした“スキ”を突いてくるのだ。

「普段、『アポロンのギャラリー』は6人体制で警備にあたっていますが、事件当時は4人だったといいます。経費削減で人手が減らされ、警備体制にも不備があったことは現地でも大々的に報じられています。また、ここまで周到な手口から、手引きをした者やかつて勤務していた人物から詳細を聞き出していたのではないか、という線でも捜査は進んでいます」(前出・記者)

 ルーブル美術館では1911年8月、有名な絵画「モナリザ」が盗まれている。事件から2年後、館内で作業した経験のあるイタリア人が逮捕され、「モナリザ」は無事、回収されている。

 同美術館は22日から参観が再開されたが、「アポロンのギャラリー」は閉鎖したままだ。ところで、犯人たちは「盗品」をどのように処分するつもりなのだろうか。

「有名な絵画を正規の市場で売買することはできません。美術品を闇市場で売るパターンもありますが、FBI(アメリカ連邦捜査局)やインターポール(国際刑事警察機構)などが手口などのデータを相当数、集積しており、現在はすぐに発覚するようになっています。しかし今回のような宝飾品の場合、ダイヤなどは細かくカットし、金は溶かすことで転売が可能です。組織的に現金化できる仕組みもありますが、普通に売っても購入者はその出所を知ることはできないでしょう」(前出・山田氏)

 最後に気になるのは、犯人像である。その鮮やかな手口から、強固に組織されたプロの窃盗集団ということになるのだが、

「私は真っ先に国際武装強盗団のピンクパンサーを思い浮かべました。クレーン車を使用する大胆な犯行、溶かした貴金属を現金化させるシステムを持っている国際的、組織的な窃盗団といえば、やはりピンクパンサーではないでしょうか」(同)

ピンクパンサー?

「ピンクパンサー」は旧ユーゴスラビアの元民兵らを実行部隊に、200人前後で組織されていると見られ。1999年から欧州を中心に20数か国で280件以上、被害総額350~400億円の犯行が確認されている。メンバーは事件ごとに、国籍に関係なく離合集散を繰り返す。現在のトクリュウの原型のようでもある。

 日本でも2004年3月、銀座の宝石店でダイヤのネックレスなど12点、35億円相当の貴金属が強奪された。07年6月にも、やはり銀座で2億8000万円超の宝石が強奪されたが、事件前後に出入国した欧州系外国人3万人を警視庁が調べ、旅券や宿泊の日程が不自然だった男性2人を浮上させた。チェコの旅券を所持していたが、警視庁がインターポール経由で照会したところ盗難旅券と有効期限切れ旅券を変造したものであることがわかった。その後の追跡捜査でモンテネグロ国籍の男2人と特定、逮捕した。

「その後、2015年ごろには中国人で構成された国際窃盗団『ピンクパンダ』が日本でも犯行を繰り返しました。手荒な手法ではなく、客を装って入店し、店員に中国語で話しかけている間、別のメンバーが本物と偽物を入れ替えて盗むという巧妙な手口でした。何人か逮捕しているのですが、報復を恐れてほかのメンバーのことは絶対に口を割らないことで知られていました」(社会部記者)

 パリ国家警察が命名したという「ピンクパンサー」の由来は、2003年5月にロンドンで起きた宝石強盗の手口が、映画「ピンク・パンサー」の内容に似ていたからだという。映画で活躍したのはピーター・セラーズ演じるパリ警察のクルーゾー警部だが、今回の事件も見事に解決となるか……。

デイリー新潮編集部

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