エマ・ワトソンを「世間知らずの無知」と断じたハリポタ作者… トランスジェンダー問題で“7年経っても埋まらない溝”がまたも深まる悲しい事情
トランスジェンダーに対する意見の相違から、長きにわたり対立を深めてきた、J・K・ローリングとエマ・ワトソン。9月にはワトソンが出演したPodcastでこの件について話した内容に激高し、ローリングがXに超長文の反論コメントを投稿。2人の関係にいよいよ修復不可能な亀裂が生まれたように見えるが、なぜ、「今」になって両者の対立が先鋭化したのか。L.A.在住の映画ジャーナリスト・猿渡由紀氏のレポートをお届けする。
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発端は2018年のローリングの「いいね」から始まった
最近、J・K・ローリングがエマ・ワトソンを“無知”と批判した件がメディアを騒がせた。「ハリー・ポッター」の生みの親と、この映画でスターになったワトソンの対立は、これまでの経緯を知る人にとっては「まだやっているのか」という感じで、決して新しい話ではない。
しかし、残念なことに、2人の関係が改善する希望は、薄まるばかりである。それはなぜなのか。
ワトソン(正確には、ダニエル・ラドクリフ、エディ・レッドメインも含む『ハリー・ポッター』ユニバースの主要キャストら)とローリングを隔てるのは、トランスジェンダーについての考え方だ。
この事柄についてのローリングの視点が明らかになったのは、2018年、彼女がtwitter(現在のX)の差別的なツイートに「いいね」を押した時だ。当初は「操作ミスでは」と思われていたが、翌年に彼女は「トランスジェンダーへの差別発言をしたせいで仕事を失った」という女性に共感する投稿をし、自らのスタンスを明確にする。
ローリングはフェミニストで知られてきただけに、トランスジェンダーの人たちには優しくないのかとガッカリする声が聞かれたが、彼女のような人を「TERF(Trans-Exclusionary Radical Feminist)=トランス排除的ラディカルフェミニスト」と呼ぶのだという(ローリングはそこに括られることに反感を表明している)。
膠着状態を破ったエマ・ワトソンのPodcast出演
押し寄せる批判に辟易したローリングは、2020年、自らのウェブサイトに長いエッセイを執筆した。「ほとんどのトランスジェンダーの人たちは他人に危害を加えない。守られるべき人たちだ」と、一応寄り添う姿勢を見せつつも、過去に受けた性的虐待のトラウマを抱える者として、「心が女性だという男性に向けてトイレや更衣室を開放したら、入りたい男性は誰でも入れるようになる」と、持論を展開。
自分の意見を裏付ける事情を長々と挙げた末、彼女は、「不安を持つ大勢の女性にも、(トランスジェンダーの女性たちに対するのと)同じ思いやり、理解をしてあげてほしい。脅迫やいじめではなく。私が望むのはそれだけ」という言葉でエッセイを締め括っている。
LGBTQの人々や彼らの支持者にしてみれば、ローリングがエッセイで綴ったことは偏見から来る意見に他ならなかった。そして、それは当時、現在進行形で多様性への取り組みを進めていたハリウッドに身を置くワトソン、ラドクリフ、レッドメインらの世代が、「そうですか、わかりました」と納得するはずのない意見だった。以来、両者の意見はずっと平行線状態だったが、そこにきて先月、ワトソンが出演したPodcastで、この話題について触れたのだ。
そのインタビューの中で、ワトソンは、子供の頃の自分にローリングがいかに優しくしてくれたのかを語り、「今もまだジョー(・ローリング)はとても大切な人」、「私は彼女を愛している。彼女が私を愛してくれたことも知っている」、「私には彼女をキャンセルすることなんてできない」と、ラブコールを送った。
その上で、「まったく相容れないように見えることがいつか解決する日、あるいは一緒になれる日が来ることを祈るだけ。そんな日が来ないにしても、どちらも真実なのだと受け入れられたなら」と、やんわりとではあるが、自分は今後も考えを変えることはないとの姿勢を示したのである。
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