エマ・ワトソンを「世間知らずの無知」と断じたハリポタ作者… トランスジェンダー問題で“7年経っても埋まらない溝”がまたも深まる悲しい事情

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「私のことを真っ向から非難するのは今や得策でないと思い、戦略を変えたのだろう」

 ワトソンに対する「彼女は無知」発言は、これを受けて出てきたものだ。

 ローリングは、Xに投稿した長いコメントで、

「エマ・ワトソンと彼女の共演者がジェンダー・アイデンティティについて自分なりのイデオロギーを持つのはもちろん良い。それは法によって守られている。しかし、この2年ほど、とりわけエマとダン(・ラドクリフ)は、かつて仕事によってつながっていた私のことを公に非難する義務があると思っているらしい。『ポッター』が終わってもう何年も経つのに、彼らは私が創造した世界の広報マンを務めようとしているようである」

 と批判。自分が世間から脅迫を受け、恐怖を感じている時、番号を知っているにもかかわらず電話ひとつくれなかったというワトソンの冷たさを明かした上で、ローリングは彼女を「恵まれた世界しか知らずに育った無知な人」だと描写した。

「お金と名声に囲まれて大人になった人たちがそうであるように、エマも普通の生活を知らない。彼女は無知で、自分が無知であることすら知らない。彼女がホームレスになることはない。病院で男女一緒の病室に入院させられることもない。彼女が『公衆トイレ』に入る時にはガードマンが入り口を守って誰も入れないようにしてくれる。(中略)彼女が、女性の刑務所に入ってきた男性のレイプ犯と一緒の部屋に入れられることが、果たしてあるだろうか?」

「14歳の時、私はミリオネアではなかった。エマを有名にした本を書いた時、私は貧乏だった。だから、エマが情熱的に信じることが彼女のように恵まれていない女性や少女にとってどんな意味を持つのか、私は実体験から知っているのだ」

 Podcastで彼女が自分に対する愛を語ったことについても、ローリングは、「私のことを真っ向から非難するのは今や得策でないと思い、戦略を変えたのだろうが、皮肉にも、そのおかげで私はより正直になれてしまった」と述べ、その言葉こそ使わないものの、ワトソンは偽善者であると匂わせている。

ワトソンとローリングの諍いは「アメリカ社会の縮図」

 かつて世界中の子供たちに夢を届けてくれた人たちが、こうやって争っているのを見るのは、なんとも辛いことだ。しかし、これは、現代のアメリカで起きていることの縮図とも言える。

 完全に二分割し、歩み寄りの可能性がまるで見えない状態。それは第一次トランプ政権下でもあったが、第二次政権下の今は、ますます悪化してきている。トランプが反DEIの姿勢を明確に打ち出し、大企業もそれに従い始めるなどしたことで、これまで黙っていた人たちが遠慮なく本音を言うようになったためである。

 かつて“仲間”だと思っていた人が、ふとした会話でそうでなかったと判明し、友達を失う。それは、アメリカのあちこちで日常的に起きていることだ。それを悲しいと思い、表面的にはこれまで通りに振る舞おうとしても、奥にある空虚さは無くならない。「フリ」をしているうちに、自分のことを「嘘つき」なのかと感じてしまう。

「ハリー・ポッター」1作目が撮影された頃、ワトソンも、ラドクリフも、政治的、社会的な意見を持たない子供だった。世の中もまた、多様性への受け入れという視点に欠けていた。だが、時が流れ、彼らと彼らのファン、そして社会自体が成熟していく中で、さまざまな認識が深まってきた。それが共感や平和ではなく、分断につながったのは、不幸な現実だ。

 7年前と世の流れが逆行してきたことで、ローリングは、なおさら思いを語りやすくなるだろう(もっとも、彼女は、そうでなくても言いたいことを言ってきたのだが)。一方で、ワトソンやラドクリフがトランスジェンダーの人たちへの思いやりを失うこともない。

 この溝を埋めてくれるのは、それこそ魔法しかないのかもしれない。そんなミラクルが訪れることは、ありえるのだろうか。

猿渡由紀(さるわたり・ゆき)
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

デイリー新潮編集部

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