視聴率で「あんぱん」に肉薄 意外にも朝ドラ「ばけばけ」が好評なワケ 仕掛けるのは“医学部卒”の制作統括
歴史を冒涜しない
朝ドラことNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の放送開始から1か月近くが過ぎた。実力派を揃えた出演陣の演技、悲しみを笑いで包み込む脚本などが評判高い。なにより、好感を抱けるのはあざとさが感じられないからではないか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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【写真】正統派美女? エキゾチック? 意外な素顔を見せる「高石あかり」の“カメレオン”ショット
最近のモデル付き歴史ドラマの中にはウケを狙って歴史を強引に捻じ曲げてしまい、批判されるものもある。だが、無茶をしなくてもモデル付きドラマは十分面白くなる。「ばけばけ」はその好例だ。
ヒロインは松野トキ(高石あかり)。島根県松江市に住む元武士の1人娘だ。モデルは小泉セツである。トキはやがてアイルランド人のレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)小)と再婚する。ヘブンのモデルは作家の小泉八雲だ。
今のところ歴史のエッセンスは正しく引き継がれ、強引な改竄は行われていない。トキもセツも養女。ともに生家は格式高い武家。
養家の借金で幼いころから苦労し、婿が逃げてしまったのも同じ。それでも視聴者を惹き付ける物語になっているのだから、味付けがうまい。
トキは1886(明治19)年だった第17回、東京の本郷にいた。松野家の借金に嫌気が差し、出ていった婿の銀二郎(寛一郞)を連れ戻すためだ。散々歩き回ったあと、銀二郎が身を寄せている下宿に辿り着いた。
嬉々として銀二郎の部屋の前に座り込むトキ。「突然すみません。来てしまいまして。ご迷惑と思いますが、お会いできませんでしょうか」。しおらしかった。だが、戸は開かない。返事すらない。
これであきらめるほどトキがヤワでないのはご存じの通り。再度、声を上げる。「お会いさせていただけませんでしょうか?」。やっぱり無反応だったものの、めげない。それどころか逆ギレした。「お返事だけでもいただけませんでしょうかね!」。
トキがあまりにうるさいため、戸は開くが、中から出てきたのは銀二郎ではなく、初対面の錦織友一(吉沢亮)。トキは「ひゃーっ!」と驚声を上げたものの、そのまま部屋に入り込み、瞬く間に寝てしまった。友一は「おい、寝るな!」と声を強めたが、イビキをかいていた。
この間、約4分。まるでコントだった。愛する人との別離という悲劇を、笑いで包み込んだ。脚本を書いているふじきみつ彦氏の力だ。
ふじき氏は早稲田大学在学中にNSC(吉本総合芸能学院)でお笑いを学んだ。同大卒業後は大物劇作家だった別役実氏に脚本を教わった。
ふじき氏の基本的な作風は、松尾芭蕉の句の一節ではないが、「おもしろうてやがて悲しき」である。過去作品のテレビ東京「バイプレイヤーズ」(2017~21年)、NHK「一橋桐子の犯罪日記」(2022年)もそうだった。
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