「ツキノワグマ」は“喰うために”次々と人を襲ったのか…専門家は「過去の常識では考えられない異常事態」の可能性を指摘
10月17日、岩手県北上市で捜索が行われ1人の遺体が発見された。さらに遺体の近くに体長約1・5メートルのツキノワグマを確認したため、猟友会が駆除を行った──。これで一件落着と安心したいところだが、クマの専門家は「前代未聞の事件が起きた可能性がある。できる限り詳細な調査を行うべきだ」と訴える。(全3回の第1回)
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【写真を見る】山道ではぜったいに遭遇したくない…人間と目が合った瞬間のツキノワグマの凍りつくような眼差し
まずは、あまりにも衝撃的だった惨劇を時系列で振り返ろう。1991年に北上市などと合併して消滅した和賀町という自治体があった。
旧和賀町は奥羽山脈の東側に位置し、和賀川流域に広がっていた。そして自然豊かな渓谷地帯に1軒の温泉旅館が営業を行っている。ネットのレビューでは5つ星と4つ星が多く、高く評価されていることが分かる。
その旅館から約1キロ離れたところにダムがある。10月8日、ダム付近の山林で男性1人の遺体が見つかった。キノコ狩りに出かけたまま帰宅せず、捜索が行われていた。
遺体の発見時、クマのうめき声が聞こえたという。そこで捜索隊は現場を離れ、猟友会のハンターらと合流し、再び山に入った。遺体は収容できたが、クマを駆除することはできなかった。担当記者が言う。
「男性の遺体には引っかかれた傷や噛みつかれた跡が残っており、県警はツキノワグマに襲われた可能性が高いと判断しました。旧和賀町のエリアでは7月4日に民家内で高齢女性がツキノワグマに襲われて亡くなっています。ちなみに、このクマは7月11日に駆除されました。ところが、さらに10月5日まで4日連続でクマが民家敷地内の小屋に侵入し、玄米の入った袋などを荒らしました。北上市は危機対策本部を設置し、警戒情報を発令していたのです」
人間を“エサ”と認識?
警戒情報を発令したものの、10月8日にダム付近で男性がツキノワグマに襲われて命を落とした。さらに10月16日にも深刻な事案が発生する。
温泉旅館で露天風呂を清掃していた男性従業員が行方不明になったのだ。露天風呂には複数の血痕が残っていたほか、付近には男性のメガネなどが散乱していた。
ツキノワグマと見られる体毛も10本ほど発見され、男性の体を引きずったような跡も確認された。また後に判明するのだが、男性はプロレスの有名レフリーだった。温泉旅館で働きながら栃木プロレスなどに出場していたという。
「地元メディアがクマの専門家に解説を依頼すると、8日にダム付近で亡くなった男性と、16日に行方不明になった男性従業員は、同じツキノワグマに襲われた可能性が高いと指摘しました。これが報道されると、たちまちネット上では不安を訴える投稿が相次ぎました。まずクマが8日の事件で人間を“獲物”として認識し、16日には食べるために襲いかかったとしたら大変な事態です。おまけに山中の森林地帯ならともかく、温泉旅館のような賑やかな場所でも恐れずにクマが出没するのであれば、被害を防ぎようがないという悲鳴も目立ちました」(同・記者)
作家で、日本ツキノワグマ研究所の所長を務める米田一彦氏は、秋田大学の教育学部を卒業し、秋田県庁に入庁すると生活環境部自然保護課に勤務した。
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