街頭インタビューの映像も一瞬で… 何でも作れる「最新AI」がもたらすかもしれない“コワい未来”(古市憲寿)
「Sora2」という新しい動画生成AIが話題だ。簡単な指示を出すだけで、実写からアニメまでどんな動画も手軽に作れてしまう。たとえばテレビの街角インタビュー風の動画もお手のもの。まだギリギリ本物かAI製かは分かるが、見分けがつかなくなるのも時間の問題だろう。
速報「2万円給付は富裕層が得をする形に」「お米券で儲かるのはJA」 高市政権“21兆円経済対策”が「現金給付のほうがマシ」と言われる理由
速報「“あのような事態を二度と引き起こさない”というお気持ちがうかがえた」 秋篠宮さまの還暦会見を識者が分析
折しも奈良公園の鹿を巡って、テレビのインタビュー映像が話題になっていた。地元のガイドや飲食店店員が「鹿をいじめている外国人を見たことがない」という趣旨を答えるだけの何の変哲もない内容。
だがそれが「やらせ」なのではないかとSNS上で話題になった。根拠はガイドに似た人が昔、別のテレビに映っていたこと。彼女は役者(陰謀論界隈では「クライシスアクター」と呼ばれる)なのではないかというのだ。よく見れば似ていないし、一つは10年以上前の番組。ちょっと冷静になればすぐに分かるうそに、なぜか多くの人が飛びついた。普段から「テレビはうそばかり」と思っている人にとって、信じやすい事象だったのだろう。
少し前なら彼らを思慮の浅い人と馬鹿にしていればよかった。だがAIによって事態が変わりつつある。さすがに奈良公園の取材映像の真偽はつくとしても、これからはネット上に膨大なフェイク動画が流通することになる。音声や動画が「証拠」にはなりにくい時代が訪れる。何せ時間もお金もかけずに、どんな素材も作れてしまうのだ。そんな時、われわれは何を信じればいいのか。
近未来、一つのターニングポイントになりそうな瞬間がある。テレビがAIの生成した動画を誤って「本物」だと流してしまった時だ。陰謀論者が想像するように、番組のチーフプロデューサーが進んでフェイク動画を用いて、世論誘導するような可能性はまずない。そんなリスクを冒す意味がないし、仕組みとしても非常に難しい。
一番あり得るのは、怠慢とミスが重なった時だ。
街頭インタビューは、まあまあ骨の折れる仕事。街ゆく人に声をかけて、カメラを回し、最後に権利関係の確認書類にサインをしてもらう。断られることも多いし、想定通りの回答を得られるかも分からない。そんな時、「面倒だからAIに映像を作ってもらおう」と考える現場スタッフが出てきてもおかしくない。今までなら違和感に気付けたが、プロの目もすり抜けるような動画ならどうか。
視聴者からの投稿はもっと危ない。特にスマートフォンの普及後、視聴者が撮影した写真や動画を放送する番組が増えた。だがこれからは、どうやってそれを本物だと認定するのか。放送された後で、生成AIによって作られた動画だと発覚したら、テレビの信用は地に落ちるだろう。もちろん週刊誌やネットメディアも同様である。
一周回って、目の前のことしか信じられないという時代が来るのだろうか。それとも醜い現実から誰もが目をそらし見たいものだけ見る時代になるのだろうか。



