なぜ「国宝」「宝島」は3時間上映でも“休憩”がないのか…昔の長尺映画に“必ず”休憩があった納得の理由
「9時間31分」の日本映画
それでは、ふつうに観て、誰もが楽しめる長尺映画は、何だろうか。
「イタリア近代史を描く叙事詩で、5時間16分の『1900年』(ベルナルド・ベルトルッチ監督、イタリア他、1976)。また、巨匠の遺作で、5時間11分の『ファニーとアレクサンデル』(イングマール・ベルイマン監督、スウェーデン他、1982)あたりでしょう。どちらも休憩がありますが、ともに波乱万丈、よい意味での俗っぽいドラマで、最後まで飽きることがありません」
ところが、ほぼ4時間におよぶのに、休憩がない映画もある。3時間56分の「クーリンチェ少年殺人事件」(エドワード・ヤン監督、1991、台湾 ※「クーリンチェ」の正式題は漢字)や、3時間50分の「旅芸人の記録」(テオ・アンゲロプロス監督、1975、ギリシャ)などだ。こうなると、さすがに事前に水分をとるのは、控えたほうがよさそうだ。
そして――以上のような海外の長尺映画もかなわない、上映時間「9時間超」の日本映画があるというのだ。
「それは、一時、ギネスブックで“世界でもっとも長い映画”として認定されていた、『人間の條件』(小林正樹監督、1959~61)で、上映時間は9時間31分です」
「人間の條件」は、戦時中、満州の鉱山管理に派遣された男(仲代達矢)が、非人間的な状況と闘う、一種の反戦映画である。仲代が鬼気迫る演技を見せる一方、男女のメロドラマもあり、戦闘場面も迫力満点、いま観ても十分面白い超大作だ。
「ただし、さすがに9時間半で1本の映画ではありません。これは、五味川純平による全6部作の長編小説が原作です。その原作を、2部ずつ1本3時間強の映画にまとめ、〈第1・2部〉〈第3・4部〉〈第5・6部〉の、事実上三部作に構成し、3年間にわたって製作・公開されたのです」
それにしたって、1本が3時間強。2回の休憩を入れたら10時間である。同一キャスト・スタッフで作られた映画としては、やはり世界最長といえるかもしれない。むかしは、1日かけて全編一挙上映などもあったが、さすがに近年の名画座では、3本の映画として別々に上映されているようだ。それでも、先ほどから解説してくれている映画ジャーナリスト氏は学生時代に、一晩で全編を観たという。
「池袋・文芸坐(現「新文芸坐」)の終戦記念オールナイトで、全編一挙上映を体験しました。土曜の夜10時20分に上映を開始し、終わったのが、たしか、翌朝の8時か9時ころでした。外に出ると、すでに真夏の太陽がギラギラ照りつけており、映画に感動する一方で、“おれは何をやっているのだろう”との思いが交錯し、複雑な気分で帰宅した記憶があります」
この「人間の條件」の大ヒットに触発されて、日活が、おなじ五味川純平原作で、超大作「戦争と人間」全三部作(山本薩夫監督、1970~73)を製作した。石原裕次郎や吉永小百合ら、日活の人気俳優総出演の大作だが、上映時間は「9時間20分」で、「人間の條件」9時間31分に、わずか「11分」およばなかった。
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