なぜ「国宝」「宝島」は3時間上映でも“休憩”がないのか…昔の長尺映画に“必ず”休憩があった納得の理由

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人手を要しない、デジタル上映

「いま、映画上映は、ほとんどがDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)方式です。配給会社から、デジタルのハードディスク・パックが届きます。それを専用プロジェクターのサーバに読み込ませて、設定しておけば、1日放っておいても、勝手に全部やってくれるのです。全13スクリーンもある〈TOHOシネマズ日比谷〉のような巨大シネコンで、1日中、あらゆる映画を混乱なく上映できているのも、DCPだからこそです」

 DCPなら、フィルム時代のように、“付け替える”なんて作業は必要ないので、当然、休憩を入れる必要もない。それだけ、映画館側は、少ない人手で運営できるようになった。

「むかしの映画館は入れ替え・指定席ではありませんでしたし、2本立てが多かったので、タイムテーブルなど気にせず、観客は上映中でも、自由自在に出入りしていました。しかし、いまはそうではありません。上映開始とともに扉を閉め、ほとんど出入りはなくなります」

 名画座によっては一定時間たつと、入場お断りのところも多い。国立映画アーカイブなどは、上映が始まった瞬間から、完全入場禁止である。

「その間、スタッフは、ほかの仕事に専念できます。しかし、休憩が入ると、扉の開け閉めのためにスタッフが張りつかなければならないし、ゴミ収集やトイレ清掃の回数も増えます。また、上映時間が長くなると、作品によっては、1日の上映回数が減る可能性もある。よって、いまは、休憩ありの映画は、あまり歓迎されなくなってきたのです」

 そもそも、“世界でいちばん長い映画”は、何だろうか。

「ドキュメンタリや実験アート映画では、14時間半とか、それどころか“上映時間30日間”なんていう、トンデモ映画があるようですが、さすがにこれらは一般向けではありません。いわゆる“劇映画”として長いのは、『サタンタンゴ』(タル・ベーラ監督、1994、ハンガリー他)の7時間18分ではないでしょうか」

「サタンタンゴ」は、先ごろノーベル文学賞を受賞した、ハンガリーの作家、クラスナホルカイ・ラースローの原作である。

「この映画は、いまではデジタル・リマスター化されていますが、オリジナルは、フィルム作品でした。公式には休憩なしなのですが、全体が12章で構成されており、区切りがあるので、途中に休憩を入れて上映されます」

 この18日から、渋谷のシアター・イメージフォーラムで、ノーベル文学賞受賞記念の、緊急上映がはじまった。「サタンタンゴ」は、午後1時開映で、終映は夜9時である。

「この映画は、7時間18分で150カットしかない、驚異的な長回しシーンの連続なんです。一種のミステリでもあるのですが、やはり“純文学映画”なので、観ていてワクワクするようなエンタメ映画とは、テイストがちがいます」

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