なぜ「国宝」「宝島」は3時間上映でも“休憩”がないのか…昔の長尺映画に“必ず”休憩があった納得の理由

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フィルム「18巻」で、重さ100キロ超の映画

「むかしの映画に休憩が多かったのは、フィルム時代特有の、映写技術上の理由です」

 と、ベテラン映画ジャーナリスト氏に解説してもらった。

「かつて映画は、フィルムで上映されていました。しかし、映画1作を、1本のつながったフィルムにすると、ものすごい長さと大きさになります。仮に2時間の映画を1本のフィルムにすると、長さ3000メートル、リールに巻いたら直径1メートルほどになってしまいます。これでは、運べません。そこで、フィルムを数巻に分割していたのです。むかしの日本映画の場合だと、ほとんどが90分だったので、1巻あたり10~20分前後、8~9巻ほどに分けて缶に詰め、運んでいました。いまでも、ラピュタ阿佐ヶ谷や神保町シアターなどの名画座へ行くと、受付のそばに、コンテナバッグに包まれ、ベルトで頑丈に梱包された、丸い大きな荷物があるのを見かけます。あのなかに、90分映画であれば、9巻前後のフィルム缶が入っているのです」

 9巻だと、20キロ以上になるというから、5~6歳児の体重に匹敵する重さだ。

「実際、むかしの映画人は、上映時間を“分”ではなく、“巻”で表現するひとも多かったのです。熊井啓さんが、自作の『黒部の太陽』を、『あの映画(シャシン)は18巻になっちゃいましたからねえ』といっていたのを覚えています」

 35mmフィルムで18巻といえば、5000メートルを超える長さである。おそらく、全部で100キロ前後の重さになったのではないか。

「フィルムが映画館に届くと、映写技師は、数巻に分けられたフィルムを、スプライシング・テープで1本につなぎ、大きなリールに巻いて、映写機にセットします。しかし、リールに巻ける分量は、最大2時間半くらいが限度なんです。90分~2時間くらいの映画だったら、リール1本で上映できますが、おおむね2時間半以上になると、途中で付け替えをしなければなりません。そこで、むかしの映画には休憩があったのです」

 その後、多くの映画館は映写機を2台持つようになり、前半・後半を2台で使い分けるようになったが、小さな映画館だと1台しかないところも、まだ多かった。

「そのほか、映写機はものすごい熱さになりますから、それを冷ます意味もありました。『ニュー・シネマ・パラダイス』で描かれたように、むかしの映画フィルムは燃えやすく、何度か火災事故を引き起こしています」

 しかし――2010年あたりから、映画上映は「デジタル」が主流となりはじめた。

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