44歳夫が応じた「叶えてはいけなかった」不倫相手のお願い “死んでやる”がうっとうしくなった頃には遅かった
【前後編の後編/前編を読む】生まれた我が子を「怖くて触れない」と言う夫 半年後にようやく抱っこ…これが家庭崩壊の始まりだったのか
石本宣之さん(44歳・仮名=以下同)は、28歳の時に後輩の友梨佳さんと結婚し、長女に恵まれた。だが新生児の娘のことが怖く、生後半年がすぎるまで触れることもできなかったという。のちに双子の男児も産まれたが、妻と子供たちについていけず、「家族になじめない」感覚を抱いてしまう。40歳を前にして職場環境の変化も重なり、自分の存在意義も見失ったという宣之さんは、妻の知人でもある2歳後輩の莉紗さんにアプローチされ、ひとり暮らしの彼女の部屋に吸い込まれてしまう。
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【前編を読む】生まれた我が子を「怖くて触れない」と言う夫 半年後にようやく抱っこ…これが家庭崩壊の始まりだったのか
どうしてそんなに簡単に不倫の関係に陥るのかと、一般的には思うはずだ。だが、自分に心を傾けてくれる人がいるとわかった瞬間、彼には急に力がわいてきたのだろう。「逃げ場」を見つけたと無意識に思ったかもしれないし、ひとときの癒やしを求めただけかもしれない。その時点での「本当の気持ち」など、本人でさえわかっていない可能性もある。ただ、彼は「莉紗の温かい心と肉体に溺れた」という。
その後、うとうとしてしまい、目を覚ますと午前1時を回っていたため、あわてて彼女の家を辞して、タクシーで帰宅した。小さな灯りだけで薄暗くなったリビングに入ったとき、自分の身体から莉紗さんの匂いがたちこめるのがわかった。すぐにシャワーを浴びにいかなければと思いながら、その匂いに身を委ねたくもあった。
「これが恋なんだと思いました。友梨佳との関係は最初から“家庭の構成員”であって、恋ではなかった。僕は莉紗とともに、家庭とは別の道を切り開いていくんだと決めた。そんな気持ちでした」
離婚は考えていなかった。彼にとっては、あくまでも妻は友梨佳さんであり、莉紗さんは恋人だった。ただ、こういうとき相手が同じ思いでいてくれるとは限らない。莉紗さんにとって宣之さんは以前から好きな人であり、その妻である友梨佳さんへの嫉妬もあった。
莉紗さんの「試練」
「会うたびに僕は莉紗に夢中になっていきました。仕事だと友梨佳には偽って、莉紗のところに泊まることもあった」
彼の中でいちばん恋の炎が燃えさかっていたのは、つきあって半年から1年くらいの間だった。莉紗さんはそれを見越していたように、さまざまな「試練」を彼につきつけてきた。そのひとつが「今日は泊まっていって」であり、彼はその願いを聞き届けた。その次に彼女がつぶやいたことは、かなりハードルが高かった。
「親は私が結婚しないことを心配している。父は今、病気で伏していてもうそれほど長くないと言われている。嘘でいいから親に会ってもらえないだろうか、と。さすがに二の足を踏みましたが、お願いと手を合わせる彼女がいじらしくて、思わずいいよと言ってしまったんです」
「やっと結婚するのか」
莉紗さんの実家は、新幹線の距離ではあるが、日帰りができる場所だ。ある土曜日、彼は友梨佳さんに仕事だと嘘をつき、莉紗さんと待ち合わせて新幹線に乗った。
「新幹線の駅から在来線に乗って30分、そこから歩いて15分。けっこう長旅でした。実家に着いて、ご両親に会いました。おとうさんは確かに伏せっていて、おかあさんはひとりで看護をしているせいで疲れているように見えました。訪問医療とかヘルパーさんとか、いろいろ利用して、なんとか家で看ているということだった。おとうさんは莉紗が僕のことを紹介すると『やっと結婚するのか』とかすれた声で言いました。莉紗は『そうよ、おとうさん。だから結婚式までがんばって』と。おかあさんは『よかったねえ』と泣いていた。結婚なんてできないのに、僕もつい『莉紗さんを幸せにしますから』と言ってしまった」
当事者としてはその場の雰囲気につられて、ついそう言わざるを得なかったのかもしれないが、これは失言だった。おそらくその瞬間、莉紗さんの目はキラッと光ったに違いない。
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