44歳夫が応じた「叶えてはいけなかった」不倫相手のお願い “死んでやる”がうっとうしくなった頃には遅かった

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莉紗さんはどうなったのか

 莉紗さんも彼の本意に気づいていたのだろう。ある日、彼女はふいに消えた。会社に来ていなかったので不思議に思った宣之さんが、昼休みに携帯に電話をしてみたがつながらない。おかしいと思いつつ帰宅してみると、家はもぬけのからだった。

「今月いっぱいでこの部屋は解約しました。私は実家に帰りますとだけ書いてあった。本音を言うと、ちょっとホッとしたんです。友梨佳に連絡をすると、『莉紗にも捨てられたのね』と言われました。さらに『今日、離婚届出してきたから』とも。いや、もともと離婚するつもりなんてなかったと言いかけたけど、その言葉の無意味さに自分で気づきました」

 宣之さんは、自分で自分の人生を蔑ろにしてしまったのだとはっきりわかったという。挙げ句の果てに、莉紗さんが不倫を会社に暴露したため、彼は閑職に飛ばされた。いづらくなって会社は辞めた。

「半年近く、ネットカフェなどをうろうろしながら自暴自棄で過ごしました。もうどうなってもいいと思っていた。そんなとき繁華街でたまたま会社員時代の先輩にばったり会い、先輩が起業した会社に拾ってもらいました」

 小さなアパートを借りて、ひとりで生活を始めた。離婚して2年近く、子どもたちには会えていない。もちろん、友梨佳さんにも。連絡をとることもできずにいる。ひとりになって初めて、自分のしたことを振り返ることになった。惑っていた自分が莉紗さんにすがったこと、恋をして生きている実感を得られたこと、そして莉紗さんの親に会ったこと。家庭のある社会人がしていいことではなかったと、ようやく自覚した。妻の怒りも絶望も、そして莉紗さんの嘆きもようやく彼に体感としてわかったという。

「しばらく地道にがんばるしかないんでしょうね。確かに僕が悪いのだから。それでも、結婚していながら恋をしたら、そこまでの厳罰を受けなければいけないのかとも思いますが……」

 やはり不倫で罰を受けるのは違うと言いたいようだ。気持ちはわかるが、彼は本来、家庭をもってはいけない人間だったのかもしれない。

 ***

 莉紗さんとの「あやまち」が無ければ、宣之さんは今も家族と共に暮らしていたはず……そのことは彼自身がもっともよく分かっているだろう。だが“予兆”ともいえる違和感は、家族をもった当初からあった。【記事前編】で詳しく紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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