杉咲花、蒼井優、宮沢りえ…代表作も多い「人が突然いなくなる」映画で“鮮烈すぎる名演技”を堪能【秋の映画案内】
深まりゆく秋、日ごとに長くなる夜。この時期は、少しじっくりと人生について考えたくなるという人も多いだろう。そこでおすすめしたいのは、ストーリーに没頭できるヒューマンドラマ。特に「人がいなくなる」出来事を扱う映画には名作が多い。身近にいる人間がある日突然いなくなり、残されたものは必死に捜索する――。数ある名作のなかから、女優が主人公となる面白さ抜群の作品を紹介しよう。【稲森浩介/映画解説者】
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【写真】「人が突然いなくなる」映画は名演の宝庫か…ひときわ光った女優たちといえば
女優・杉咲花を大きく変えた作品
〇「市子」(2023年)
最新作「ミーツ・ザ・ワールド」(10月24日全国公開)で婚活をする腐女子を演じている杉咲花。その演技には定評があるが、10月3日放送のNHK「あさイチ」で、「市子」は「演技の考え方が大きく変わった作品だった」と語っている。果たしてどんな内容なのか。
同棲している恋人・長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日、川辺市子(杉咲花)は忽然と姿を消す。義則は刑事から「彼女は戸籍上存在しない人間だ」と言われ、市子を捜しに知人たちを訪ね歩く。やがて彼女の壮絶な過去と、姿を消した本当の理由が明らかになる。
杉咲は「あさイチ」で、「脚本に共振したのにその人物になりきるのは不可能だと。血の通った本当に存在する人として考えるようになった」と語っている。その言葉どおり、公開当時に「脚本ではプロポーズされる箇所に『泣く』とあるだけですが、市子のような人が結婚を申し込まれた時、こんなにも嬉しくて痛みのある気持ちになるのかとイメージできました」と語っている。
憑依的とも言われたその演技は、「キャリア史上最高」と評されたのもうなずける。2011年から始まった「Cook Do」のCMで、豪快に食べる少女を覚えている人も多いだろう。あれから十数年、杉咲が到達した演技をぜひ観てほしい。
別れた恋人が行方不明…蒼井優の代表作
〇「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年)
8年前に別れた恋人・黒崎(竹野内豊)をいまだに忘れられない十和子(蒼井優)。不潔で下品な男・陣治(阿部サダヲ)と暮らしながら、妻子持ちの男・水島(松坂桃李)と関係を持つという生活を送っていた。ある日刑事が訪ねてきて、黒崎が行方不明だと告げられる。彼女は、陣治が黒崎の失踪に関わっているのではないかと疑う……。
公開当時の「共感度0、不快度100」というキャッチコピーどおり、十和子は怠惰で自己中心的、執拗なクレーマーでもある「クズな女」だ。蒼井はこれまでの清純なイメージを覆してこの役を演じ、大胆なシーンにも挑戦している。内面に渦巻く孤独、渇望、そして脆さを繊細に表現し、日本アカデミー賞・最優秀主演女優賞他、多くの賞を受賞した。
蒼井は舞台挨拶で、「代表作になると確信しています」「(十和子は)近くにいたら本当に嫌な女です。でも、こういう人いるなとも思う。その“いるな”という部分をどうにか手繰り寄せたくて必死でした」と語っている。
蒼井の核心をつかみ取る深い洞察力と、すべてを曝け出すかのような渾身の演技があったからこそ、本作は心に深く刻まれる傑作になった。
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