杉咲花、蒼井優、宮沢りえ…代表作も多い「人が突然いなくなる」映画で“鮮烈すぎる名演技”を堪能【秋の映画案内】
原作にはない「婚約者」…失踪の理由は
〇「世界の中心で、愛をさけぶ」(2014年)
片山恭一の原作は、柴咲コウの書評がきっかけにベストセラーに。映画化で人気はさらに加速して「セカチュー」の言葉とともに社会現象となった。
松本朔太郎(大沢たかお)と婚約している律子(柴咲コウ)は、ある日古いカセットテープを見つけた後、突然失踪する。朔太郎は律子が自分の故郷・高松にいることを知る。そのテープには、17年前の朔太郎(森山未來)と白血病で亡くなった恋人・亜紀(長澤まさみ)の声が録音されていた。
本作の前年に「ロボコン」で映画初主演を果たした長澤まさみは、頭髪をすべて剃り、迫真に満ちた演技でその年の映画界最大の話題となった。今では綾瀬はるかと並び、日本を代表する女優となったことに異論はないだろう。
ここでは、原作との違いを比較してみよう。映画版の最大の成功は、原作の設定とは違う律子を登場させたことだ。ラストで律子の失踪や足を引きずっている理由がわかると同時に、物語が鮮やかに円環し、深い感慨が訪れる。
細かく書けないが、この構成は公開当時「あまりにも偶然すぎる」という声もあった。しかし、いま見直してみると律子は単なる婚約者ではなく、朔太郎が亜紀との過去に区切りをつけ、前向きに生きるための救済者として描かれていることがわかる。
この見事な脚本には、「花束みたいな恋をした」(2021年)や「怪物」(2023年)で近年さらに評価が上がった、坂元裕二が参加している。深く納得してしまった。
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