杉咲花、蒼井優、宮沢りえ…代表作も多い「人が突然いなくなる」映画で“鮮烈すぎる名演技”を堪能【秋の映画案内】

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「最も美しい横領犯」宮沢りえの逃走シーン

〇「紙の月」(2014年)

 角田光代の同名小説を吉田大八監督が映画化。主演の宮沢りえは、その年の映画賞を総なめにする圧巻の演技を見せ、本作を代表作の一つとした。

 バブル経済が崩壊した1994年。夫との平凡な生活に空虚さを感じていた主婦・梅澤梨花(宮沢りえ)は、銀行の契約社員だ。ある日、年下の大学生・光太(池松壮亮)と出会い、彼との逢瀬を重ねるために顧客の預金に手をつけてしまう。やがて後戻りできない巨額の横領へと突き進む。

 宮沢が女優として本格的な道を歩むきっかけとなった作品を一つ挙げるとすれば、「たそがれ清兵衛」(2002年)だろう。海坂藩に務める清兵衛(真田広之)が討ち手となり、その身支度を幼なじみの朋江(宮沢)が手伝うシーンがある。その姿がたおやかであり、挙措の美しさが際立っていて、「うまいなあ」と唸ったことを覚えている。

 その後「父と暮らせば」(2004年)、「トニー滝谷」(2005年)などの秀作に出演し、着実に評価を高めていった。しばらく舞台活動に注力していたが、7年ぶりの主演映画に本作を選ぶ。そして東京国際映画祭・最優秀女優賞などを受賞し、「本格派女優」の評価を勝ち得たのだ。

 終盤、追い詰められた梨花が銀行の窓をぶち破って逃走し、その後行方がわからなくなる場面がある。制服のまま疾走する姿は爽快感さえあり、梨花がつぶやく「偽物なんだから壊れてもいい、私自由なんだな」という言葉がいつまでも残る。

 宮沢りえという女優の凄みを再認識させられる、必見の作品と言えるだろう。

父を探す娘がたどり着いた衝撃の事実

〇「さがす」(2022年)

 先の読めない衝撃的な展開で、国内外から高い評価を受けた片山慎三監督の作品。「天才子役」と言われていた伊東蒼が娘役を演じた。

 中学生の楓(伊東蒼)は、父の智(佐藤二朗)と大阪の西成で暮らしている。ある日、智は「指名手配中の連続殺人犯を見た。捕まえたら300万円もらえる」と楓に告げ、忽然と姿を消してしまう。楓は父の行方をさがすうちに、父の名前を使って日雇い現場で働く青年(清水尋也)と出会う。そして思いもよらない事実に直面していく。

 佐藤二朗が、得体の知れない不気味さと悲哀を纏った父親像を怪演するとともに、伊東は不安と孤独に苛まれながらも、その健気さと芯の強さを見事に体現した。

 2005年生まれの伊東は、6歳でデビュー。映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)で高い演技力を示し、数々の新人賞を受賞。本作の演技でも、若き才能を改めて証明した。共演の佐藤は舞台挨拶で「16歳であの芝居の感性と技術は怪物」と手放しで絶賛している。

 ところで今注目の森田望智が、本作で自殺志願の女を演じている。「カメレオン女優」の呼び名のどおり、言われなければ森田とわからない巧さだ。こちらもぜひ注目してほしい。

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