東大院生として初めて“箱根駅伝”を走った男が明かす「魔物に出会った瞬間」

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繰り上げスタートの不安も感じていた

 古川氏がスタートを切る戸塚中継所では、共に東京大学で練習を続ける秋吉拓真選手(当時、3年)とのリレーも実現。トップ選手の通過から20分経つと繰り上げスタートの可能性もある状況の中で、見事に中継所までたすきを繋いだ。

「当日はレースの動向が逐一伝えられていて。一時は『もしかしたら繰り上げスタートの可能性があるかもしれない』と言われ、最悪の事態も覚悟しながら秋吉選手の到着を待っていました。でも、秋吉選手が『区間賞を狙う』と話していた言葉通りの活躍を見せてくれて、そんな心配はいつの間にか吹き飛んでいました」

 古川氏が起用された9区は、序盤は急な下り坂からスタートし、8km付近の権太坂を過ぎるとそこから緩やかな下りが続き、みなとみらいや横浜の市街地に差し掛かる後半は、一転して平坦な道を走り抜けるコースだ。

「程よい高揚感を味わいながらスタートを切りましたが、最初の1kmを予定より速い2分40秒前後で走ってしまって。想像を絶する大声援の中で走っていたので、気持ちが昂りすぎたのかもしれませんが、まるで魔物に取り憑かれたように突っ込んでしまう感覚はあったかと思います」

箱根駅伝でしか味わえない経験はある

 まもなく運営管理車に乗る監督の声がけで自身のオーバーペースに気付き、従来の走りを取り戻した古川氏は、途中の横浜駅で八田教授の差し出したドリンクを受け取りつつ、ゴールに向かって激走。「向かい風が強くなり、足も止まり始めて苦しかった」という平坦な道が続く終盤も乗り切り、区間18位相当(※学連選抜はオープン参加のため。正式記録では順位なし)の1時間11分52秒でレースを終えた。

「箱根駅伝に出ることでしか得られない感情を味わえたことは、僕の人生にとって大きな収穫になりましたが、当日は遠く九州からもたくさんの友人が応援しに来てくれていたので、声援を送ってくれた皆さんに、目標としていた区間10番以内の快走を見せられなかったことに対しては、申し訳なさも残りました」

 今年初めの箱根駅伝をそのように振り返った古川氏は、4月から京都工芸繊維大学の特任助教に就任し、これまでの経験を生かした「ランナーの集団ダイナミクスの研究」に励んでいる。

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