「政治的に無知」な層を集めるゲームと化した自民党総裁選 自公連立が決裂した高市早苗で「あの安倍政権をもう一度」になり得るのか
下馬評を覆し、総裁選で小泉進次郎氏を破った高市早苗自民党総裁。しかし、その期待とは裏腹に人事では麻生派を優遇したことで反発を招き、連立を組むパートナーである公明党からは三行半を突き付けられている始末。彼女は「安倍政権の継承者」ではなかったのか。『「逆張り」の研究』『みんな政治でバカになる』などの著者がある文筆家の綿野恵太氏が分析する。
【写真を見る】ここでしか見られない高市新総裁と愛車「スープラ」との2ショット
「政治的に無知」な層を動員するかというゲーム
今回の総裁選の「解党的出直し」というフレーズ、小泉純一郎元総理の「自民党をぶっ壊す」を思いだしました。旧安倍派などの裏金問題で支持率が低迷し、安倍色の薄い石破総理を選んでも回復しなかった。有力候補の進次郎さんに求められたのは、「党内融和」なんて言わずに、お父上を見習って中途半端な処分で終わった裏金議員に刺客を送り込むぐらいの勢いで、古い自民党をぶっこわす意気込みでした。
だが、今回の総裁選では持論を封印。一年前の総裁選では、選択的夫婦別姓に賛成と公言し、同性婚にも賛成寄りの立場。まあ、解雇規制の緩和にも踏み込んだので、リベラルというよりはネオリベなんでしょうが、ご自身の立場を明確に打ち出せば、新しい自民党を演出できたはずです。
けれども、総裁選は論戦という論戦にはならなかった。選択的夫婦別姓や同性婚には反対の高市さんもいたにもかかわらず。
今回の総裁選を見て、主義主張を戦わせたり、政策を議論しあう「熟議」はもはや難しいと感じました。進次郎陣営の「ビジネスエセ保守」やらせコメント問題や高市さんの「奈良の鹿」発言に象徴的ですが、ネットの人気取りのほうが大事。
参院選の党首討論で、当時ネットで話題だった「フェンタニル」の話を、脈絡なくぶっこんできた国民民主党の玉木代表にもその姿勢を感じます。議論を積み重ねることに目的はなく、ショート動画として切り抜かれて拡散されるためのパフォーマンスになっている。
選挙はいかに「政治的に無知」な層を動員するかというゲームになっています。いかにネットでアテンションを集めるか、終始しているのです。
逆にいえば、リベラル側から石破さんがなぜか人気だったのは「熟議してくれそうな人」というイメージがあったからです。でも、「熟議」だとアテンションを集められないんですよね。国会議員も国会会期中に寝ている人、多いじゃないですか。刺激がないから退屈なんです。とはいえ、時間をかけてゆっくり議論することは政治にとって大事なんですが。
高市さんが総理になったとしても…
総裁選の結果は、大方の予想をくつがえし、高市早苗さんが選出されました。しかし、総裁選での麻生派の暗躍、党人事における裏金議員の復帰を見ると、古い自民党への回帰にしか見えない。
保守派からは高市さんが安倍晋三元首相のレガシーや遺志を受け継ぐ人だとみなされています。右派的な思想だけでなく積極的な財政政策においても。しかし、実のところ、安倍政権が残した負の遺産に苦しめられるのではないでしょうか。旧安倍派の裏金問題はもちろんですが、今回総裁選のテーマになった「外国人政策」においてです。
そもそも、外国人労働者の受け入れを拡大したのは第二次安倍政権です。とくに二〇一八年につくった特定技能制度では、一部分野で家族の帯同もOKとなって、在留期限の上限もなくなったため、事実上の「永住」が可能となりました。また、ビザ発給要件を緩和して外国人観光客を増やしてきたのも、第二次安倍政権です。
保守派に配慮してか、当時「移民政策ではない」と安倍さんは繰り返しましたが、実質的には移民政策です。その結果、日本語教育や生活支援など外国人政策は地方自治体に丸投げされ、今夏の全国知事会でも、「多文化共生社会の実現のために国が責任を持て!」という要請が出されました。
きちんとした「移民政策」をとらなかった結果、人々の不安につけこむかたちで排外主義的な主張をする参政党が躍進しました。参政党に流れた保守層の支持を取り戻そうと、自民党はあわてて外国人対策を言い出したわけです。よく考えれば、自分たちが放置したツケが回ってきただけの話なのに、「外国人との付き合い方をゼロベースで考える」とかなんとか言って、なんで愛国者面しているのか、わけがわかりません。
「ワークライフバランスという言葉を捨てる」という高市さんの言葉が物議を醸しましたが、興味深いことに、今回の総裁選ではいずれも候補も「働き方改革」の見直しでは一致しています。自民党は参院選でも「『働きたい改革』の推進」を公約に掲げた。人手不足で苦しむ経済界のための政策です。
少子高齢化による深刻な労働力不足のもと、日本経済において外国人労働者の存在は欠かすことができません。経団連も積極的な受け入れ拡大を求めています。第二次安倍政権は右派勢力から支持を取り付けつつも、市場の要請に応えるべく「移民政策」を推進させました。
だが、高市さんはどうでしょうか。経済を重視するならば、さらなる移民の拡大や共生のための制度設計は避けられない。しかし、彼女の支持層である右派勢力はそのような移民政策に強く反発するでしょう。すでに靖国神社の参拝を見送ったと報道されていますが、総理になったとしても、高市さんは経済と政治のあいだで難しい舵取りを余儀なくされるのではないでしょうか。
[1/2ページ]



