シングルマザーと結婚、“娘”は10歳年下…「あの子のほうがお似合い」と言われた妻のひきつった笑みと、2年半で終わった家庭生活
【前後編の前編/後編を読む】穏やかな再婚生活に忍び寄る“かつての家族”の暗い影――息子への嫉妬に気づいた51歳夫が怯える「過去からの逆襲」
世の中には「不思議なこと」がある。事実は小説より奇なりだ。昔、関係のあった異性が、巡り巡って知人と結婚していたり、決して知り合いそうにない別世界の人同士が恋愛したり。ちょっとしたタイミングで、偶然が必然になるのは、神様のいたずらのようなものなのだろうか。
【後編を読む】穏やかな再婚生活に忍び寄る“かつての家族”の暗い影――息子への嫉妬に気づいた51歳夫が怯える「過去からの逆襲」
「本当にそうですよね。僕がいちばん驚いているんだけど、すべてを明らかにしたほうがいいかどうか判断がつかなくて」
田所秀顕さん(51歳・仮名=以下同)は、本当に困っている、どうしたらいいかわからないという言葉を連発した。
恋したのは、7歳年上のシングルマザー
彼は高校卒業後、専門学校を経て資格を得、とある技術職に就いている。「きれいな仕事とは言えないけど自分の腕一本で食べているという実感はある」と話す。
「21歳から働き始め、25歳のときに7歳年上の美和子という女性と知り合ったんです。32歳という年齢なのに彼女には15歳の娘がいました。高校時代に出産し、高校を中退してひとりで育てたと。相手は近所のアパートに住んでいた大学生で、彼女の妊娠がわかると逃げてしまったそう。連絡先もわからず、誰にも相談できず、結局、信頼していた高校の先生に話して、なんとか無事に産むことができた。彼女、父子家庭で育っているんです。おとうさんだけには心配かけたくなかったと言っていました」
だがその父親は、脳出血のため、孫が産まれることを知らないまま世を去った。父方の叔母夫婦が同居させてくれたのだが、彼女はうまいように言いくるめられて父の遺産も放棄、自宅を売却したお金もほとんど叔母夫婦にもっていかれたらしい。
「ときどき彼女と会うようになって、そんな深刻な内容を笑い話として語る彼女に惹かれました。もっといろいろなことを嘆いて不幸自慢をしてもいいようなものなのに、彼女は明るかった。彼女は水商売も含めて仕事を転々としたけど、今は自営で美容関係の仕事をするようになった、もっと事業を広げたいとキラキラした目で語っていた。大人の女性として尊敬しました。それが恋へと変わっていった」
プロポーズも「結婚はしたくない」
彼自身もいつかは自分の会社をもちたいと思っていたが、彼女のように険しい道でも切り開いていくだけの根性はなさそうだと自分で感じたという。それからふたりはどんどん親しくなり、半年ほどで彼はプロポーズした。
「でも彼女は、結婚はしたくないと。娘のことを考えると今はちょっとと。でも数ヶ月後、娘があなたに会いたいと言っているって。母親に誰かいると気づいたようです。僕は身ぎれいにして娘さんが好きだというケーキを買って家を訪ねました」
癖の強い子だったらどうしようと不安だったが、美和子さんの娘の優希さんはニコニコと彼を迎えてくれた。母親の恋人らしき男性に、これほどオープンに接してくれるとは予測していなかったので、彼もすっかり心を開いた。
「優希が食事を用意してくれたのよと、美和子はうれしそうだった。ビーフシチューや、きれいに盛りつけられたサラダなどが並んでいて、とても高校に入ったばかりの子が作ったとは思えなかった。言い換えれば、それだけ彼女は子どものうちからキッチンに立たなければならない環境だったんでしょう。シングルの家庭は、親も大変だけど子どもも大変なんだなと改めて感じました」
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