門脇麦、中島美嘉、多部未華子…女優たちが“吹き替えなし”で奏でた名作「音楽映画」5選【秋の映画案内】
コメディエンヌの才能を開花させた多部未華子
〇「あやしい彼女」(2016年)
女手一つで娘を育て上げた73歳の瀬山カツ(倍賞美津子)は、周りから煙たがられる存在だ。ある日、家を飛び出したカツは、不思議な写真館で写真を撮ると20歳の頃の自分(多部未華子)の姿になってしまう。彼女はこれまでできなかった青春を謳歌しようと決意。天性の歌声で人々を魅了し、歌手になる夢を掴みかけるが……。
本作の面白さは、多部未華子の演技と歌声だろう。見た目は20歳でも中身は73歳という難役を、話し方や仕草、ふとした表情で見事に表現。ゲップをしたり、股を開いたりとコメディエンヌとしての才能を存分に発揮した。そして「見上げてごらん夜の星を」「真っ赤な太陽」「悲しくてやりきれない」などの昭和歌謡を、情感豊かに歌う多部の姿には心を揺さぶられる。
NHK朝ドラ「あんぱん」で話題になった、孫役の北村匠海が弾くギターとの共演は必見だ。現在もバンド活動を続けている北村はこの時18歳。翌年に「君の膵臓をたべたい」で映画初主演を果たしている。
多部はカツの役作りについて、「73歳になりきるため、倍賞(美津子)さんの演技のタイミング、仕草、台詞の言い回しを、自分の演技に反映させるために吸収していた」と語った。その徹底した役作りが、老婆らしい立ち居振る舞いを生み出している。「透明感のある女優」というイメージの多部だが、彼女の新たな一面と確かな実力を再認識させられる一作だ。
本作は2014年に韓国で大ヒットし、その後8か国でリメイクされた話題作。オリジナル作では、日本でもなじみのシム・ウンギョンが多部に劣らず巧みに演じているので、見比べてみるのも面白い。
秘密が明らかになったとき、連弾が切なく響く
〇「言えない秘密」(2024年)
台湾の名作映画(同タイトルで2008年に日本公開)を原案とした、音楽大学を舞台に繰り広げられるラブストーリー。よく「目で感情を表現する」というが、古川琴音が役によって使い分ける「目の演技」は若手女優で随一ではないだろうか。
そんな古川は、この作品で初めて恋愛映画のヒロインを演じた。共演の京本大我との距離を縮めるために、撮影中はお互いに「きょも」「こっちゃん」と呼び合っていたという。
過去のトラウマからピアノが弾けなくなってしまった音大生・湊人(京本)。旧講義棟から聞こえてくる神秘的なピアノの音色に導かれ、雪乃(古川)に出会う。彼女が奏でる曲に惹かれた湊人が曲名を尋ねると、雪乃は「秘密」とだけ答える。連弾を通じて2人は次第に心を通わせていき、湊人は再びピアノと向き合うようになった。しかしある日、雪乃は湊人の前から姿を消してしまう。彼女はなぜいなくなったのか。「言えない秘密」が明らかになるとき、これまで見えていた世界が大きく変わる。
2人が息を合わせる連弾シーンが強烈な印象を残す。ラブシーンよりも音楽がお互いの感情を強く表現しているのだ。古川は公開当時のインタビューで「完成した映画を観たときに、鍵盤の上で動く2人の手に寄ったカットに一番ドキドキしたんです。指と指が触れてしまってハッとするところなんかは心臓が早鐘を打つ音が聞こえてきそうで……」と答えている。音楽シーンと古川琴音の存在感が、大きな魅力の一作だ。
「十二人の死にたい子どもたち」(2019年)で注目されて以来、その個性が評価され、多くの役に挑んできた古川。これからの活躍が最も期待される女優といえよう。
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