門脇麦、中島美嘉、多部未華子…女優たちが“吹き替えなし”で奏でた名作「音楽映画」5選【秋の映画案内】
門脇麦と小松菜奈が織りなす切ないロードムービー
〇「さよならくちびる」(2019年)
インディーズで人気の女性ギターデュオ「ハルレオ」。才能あふれるハル(門脇麦)と奔放なレオ(小松菜奈)は付き人のシマ(成田凌)を伴い、解散を決意して最後の全国ツアーへと旅立つ。しかしその旅路で、ハルからレオへ、レオからシマへ、そしてシマからハルへと向けられた一方通行の想いが明らかになり、3人の関係は複雑に絡み合っていく。
ロードムービーの形式を取りながら、音楽にのせて三者三様の人間模様と恋心を繊細に描き出す物語だ。注目点は、物語と深く結びついた音楽。主題歌「さよならくちびる」は秦基博がプロデュースし、挿入歌「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」はあいみょんが作詞作曲を手掛けた。登場人物たちの言葉にならない感情を代弁するかのような歌詞とメロディが、観る者の心に深く響く。
さらに特筆すべきは、主演の門脇麦と小松菜奈が、吹き替えなしで挑んだ歌とギター演奏だ。撮影のために数ヶ月にわたる猛練習を重ねたという2人のパフォーマンスは、ライブシーンに圧倒的なリアリティと熱量を与えている。公開当時「本物のシンガーソングライターの女性ボーカルのよう」と評する声もあったが、筆者は特に小松菜奈の包み込むような歌声に魅了された。期間限定で復活したらぜひライブに行ってみたいものだ。
劇中ユニット「ハルレオ」の曲はCD発売され、配信もあるのでその圧倒的な歌声をぜひ聴いてみてほしい。
原作から抜け出してきたような中島美嘉と宮崎あおい
〇「NANA」(2005年)
大崎ナナ(中島美嘉)は、「BLACK STONES」のボーカリストだ。恋人を追いかける天真爛漫な小松奈々(宮崎あおい)と新幹線で偶然隣り合わせ、東京で同居生活を送ることに。ナナのかつての恋人・本城蓮(松田龍平)が所属するバンド「TRAPNEST」との遭遇や、奈々の恋の行方を交えて物語は進んでいく。矢沢あいの原作の世界観を忠実に再現した映像美が話題になり大ヒット、劇中歌も年間ランキング入りした。
中島は、そのルックスから立ち居振る舞いまで、原作から抜け出してきたかのような完璧な役作りでファンを魅了。特に、歌手としての実力を遺憾無く発揮したライブシーンは圧巻の一言。「初めて私自身がやりたいと思って、自ら掴みにいった作品だった」と語っているが、「NANA」と呼ばれることが増え「この先もずっと中島美嘉ではなく、NANAとして自分は存在していくのかな?」と、葛藤に悩まされたことも告白している。
一方、宮崎は、コロコロと変わる表情で心の機微や繊細さを原作に忠実に表現し、物語に温かい光を与えている。ふたりの女優が放つケミストリーこそが、この映画の最大の魅力だろう。
バンドメンバーを演じた松田龍平と松山ケンイチの演奏は、専門家の指導を受け、プロが見ても違和感のないレベルと言われている。リアルな音楽シーンを支える大きな要因だろう。
翌年には続編の「NANA2」が公開されたが、スケジュールの都合で宮崎あおい、松田龍平、松山ケンイチの役は別の俳優が演じている。作品としては楽しめるが、一作目のインパクトが強かったためファンの間では残念だという声もあがった。
ところで今回再見して気がついたのだが、エンドロールに「綾野剛」の名前がある。いったいどこに出ていたのだろうと見直すと、ナナが初めて蓮のバンドを見たときに、そこのボーカルをしていた。ほんの少しの登場だが、デビューまもない綾野剛を見たい人は、探してみてはいかがだろうか。
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