妻に「ママ」を求めてしまう哀しき50歳夫 原因は“親失格の実母”と“バイト先の女将”のせいなのか
手練手管の年上女性に…
翌日には熱も下がったが、咳がひどかったのでバイトには行けなかった。深夜、女将さんはまた来てくれた。熱が下がってよかったと作ってきたおかゆの土鍋を火にかけ、「あなた、唐揚げ好きだったわよね。食べられる?」と出してくれた。
「その唐揚げを一口食べたら、本当においしくて。ときどきまかないでも出してくれるんですが、絶妙な味つけなんですよ。『大将、おいしいもの作りますよね』と言ったら、『そうなの。あの人は本当に味つけが上手』って。いい夫婦なんだなあと思いながら話していたんですが、女将さんがやけに近くに寄ってくるんですよ。おかゆをよそってくれたときなんて、僕にぴったり貼りついて。熱を出して汗かいたから臭いですよと冗談交じりに言ったら、そんなことないわよって、僕の背中に頬をすりよせてきた。20歳そこそこの男に、30代後半の熟女がそんなことをしたら、暴走するに決まってますよ」
彼女は彼の暴走を受け止めてくれた。それどころか暴走を煽った。「手練手管の年上女性にすっかり骨抜きにされた」と彼は振り返る。
「大将はね、できないのよ。だからまたしてねと女将さんは帰りがけに色っぽい目を送ってきました。大将は40代だったと思うけど、何か病気だったんですかね、あるいはできないというのは女将さんのでまかせだったのか……」
大将を見て胸が痛んだが…
店に出られるようになって大将が、「おお、元気になってよかった。心配したぞ」と笑いかけてくれたとき、さすがの峻也さんも胸が痛んだ。恩を仇で返すというのはこういうことだろうなと思ったという。
「人として何をすればいいのか、何をするといけないのか。少しだけわかったような気がしました。僕はそういう教育とかしつけとかを受けていなかったんですよね。情けないことに」
そう言いながらも、彼はすぐには女将さんとの関係を断ち切れなかった。あるとき、大将とふたりきりで世間話をしながら店の片付けをしていると、「オレはかみさんを苦しめているだけなのかもしれないなと思うことがあるよ」とふと大将はつぶやいた。バレたかと思ったが、大将はそれきりなにも言わなかった。
「バレているわけじゃないとそのときは思いましたが、大人になった今考えると、大将は気づいていましたね。ただその後、女将さんはお店の客と駆け落ちしちゃったんですよ。大将はもちろんだけど、僕も裏切られたような気になった。大将は気落ちしながらも、がんばって店を続けていました。僕が就活をするころ、店を手伝ってくれていた元お客さんの女性と大将が恋愛関係に陥って……。人間ってすごいなと思いながら、僕は無事にアルバイトを辞めました」
人生を学んだし、男女の関係にはいいタイミングというものがあるんだとも知った。
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女将さんとの思わぬ関係を振り返ると、峻也さんが“母性”を強く求めてしまうのは、生育環境に根差したものなのだろうか。【記事後編】では、それを妻に求め、暴走する彼の半生を紹介している。
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