「先生は間違うていました」で済まない…朝ドラ「あんぱん」の”ご都合主義”に強烈な違和感
のぶが取らなかった戦争責任
朝ドラことNHK連続テレビ小説「あんぱん」が終了してから約1週間。面白いドラマだった。ただし、見過ごせない問題があった。戦争責任である。なぜ、のぶ(今田美桜)は国家主義の教師として児童たちを戦争に駆り立てながら、終戦と同時に民主国家の旗振り役だった高知新報に入社できてしまったのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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やなせたかしさんとその妻・暢さんをモデルとする柳井嵩(北村匠海)とのぶの個人史が、本人たちのものと食い違っているくらいなら、全く問題ない。それがドラマだ。
しかし、戦争責任のような歴史全体に関わる問題となると、話は別。改変したほうが面白かったでは済まされない。万一、戦争責任が軽いものだと誤解されたら、将来の禍根にもなりかねない。
のぶは1938(昭13)年だった第35回から、国家主義の教師だった。日中戦争が起きた翌年だ。辞職したのは終戦直後の1946(昭21)年の61回。児童たちに向かって「先生は間違うていました」と詫びた。
同じ年の第63回、のぶは復員してきた嵩にはこう懺悔する。
「うちは子供らに取り返しのつかんことをしてもうたがや。あの子ら戦争に仕向けてしもうたがはうちや。うちは立ち止まらんかった。立ち止まって考えるのが怖かったがよ。あの子らの自由な心を塗りつぶして、あの子らの大切な家族を死なせて」
のぶも戦争責任を自らも認めている。罪の意識は深く、「うち、生きちょってええがやろうか」と死の覚悟まで口にした。だが、戦争責任は反省や後悔によって消えるものではない。
GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は1945年10月から約7000人の国家主義的な教師をパージした。教職追放である。戦時中の意趣返しとばかりに保護者からの密告が相次いだ。パージされる前に辞める教師も多かった。
ほかに政治家、官僚、新聞人らがパージされた。こちらは公職追放である。その数、実に21万人。国家主義の町内会長までパージされたから徹底していた。
のぶは教師を辞めていたが、戦争責任はそれで免責になるようなものではなかった。日本が受諾したポツダム宣言の第6条にはこうある。
「日本国民を欺き、世界征服に乗り出す過ちを犯させた権力、勢力を永久に除去する」
GHQの狙いは戦争加担者たちの一掃。転向しようが関係ない。だから過去の問題も追及した。現職も元職も関係なかった。
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