映画「チェンソーマン」主題歌も大ヒット! 「職人的ソングライター」としての米津玄師の魅力

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鋭さと繊細さが同居

 今回の劇場版「チェンソーマン レゼ篇」のタイアップ曲でも、彼は再び「チェンソーマン」の楽曲を手がけるという困難に挑み、新たな解釈を示してみせた。アニメ版の主題歌の「KICK BACK」が「チェンソーマン」という作品全体のテーマを象徴するものだとしたら、今回の2作品は作品の一部である「レゼ篇」に特化している。

「IRIS OUT」では、レゼというキャラクターの妖しい魅力の虜になっていく主人公のデンジの揺れ動く心情が描かれている。エンディングテーマの「JANE DOE」は、そんな2人が物語の果てに迎えた静かな結末を象徴する内容になっている。鋭さと繊細さが同居するこれらの楽曲は、映画を見た観客の感情をたかぶらせるだけでなく、音楽単体でも強烈な印象を残す。これはまさに、作品に奉仕しながら同時に自分の表現を完成させるという米津の職人的手腕の最新の成果である。

 一般に、タイアップは宣伝効果を狙ったマーケティングの一環と捉えられがちだが、米津が主題歌を担当することは作品の宣伝を超えて、作品そのものの芸術性を高める効果を持つ。制作者にとっては米津を起用することが作品に厚みを与えることになる。

 また、米津の楽曲は元の作品の放送終了や映画公開終了後も長く聴かれ続ける傾向が強い。これは彼の楽曲が愛、喪失、孤独、希望といった普遍的なテーマを扱っていて、多くの人の心に寄り添うものになっているからだ。

 米津玄師の魅力は「作品のために書く職人的ソングライター」と「自分の世界を築くアーティスト」という2つの顔を同時に成立させていることにある。彼が作品に寄り添えば寄り添うほど、自分の音楽が豊かになり、逆に自分の表現を追求すればするほど、作品世界も鮮やかに立ち上がる。

 劇場版「チェンソーマン レゼ篇」の主題歌の大ヒットはそのことを証明している。今後、彼はどのような作品と出会い、どのような楽曲を生み出していくのか。米津玄師という稀有なアーティストへの世間の期待はますます高まっていくだろう。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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