最高峰ミラノ・スカラ座で「脇園彩」が主演… 実はスゴい「日本人オペラ歌手」たち
脇園に次いでスカラ座アカデミーに入学
たとえば、脇園に似た道を歩んでいるのが杉山沙織(メッゾ・ソプラノ)だ。昭和音大声楽科を卒業し、同大学院を修了後、2023年に新国立劇場オペラ研修所を修了。その後、ペーザロのロッシーニ・アカデミーの研修生に選抜され、終了公演のロッシーニ作曲『ランスへの旅』で、脇園も歌った難役メリベーア侯爵夫人役を歌って絶賛された。筆者も聴いたが、かなりハイレベルだったこの公演で、すぐれた歌手たちに十分に伍して歌い、大きな拍手を浴びた。
その後、文化庁新進芸術家海外研修制度研修員としてイタリアに留学。数々のコンクールで優秀な成績を残し、ジュゼッペ・ディ・ステファノ国際声楽コンクールでの優勝の副賞として、今年7月にはシチリア島でロッシーニ作曲『アルジェのイタリア女』のイザベッラ役で主役デビューした。10月からは脇園の「母校」であるミラノ・スカラ座アカデミーに在籍する。
ミラノ・スカラ座研修所と並ぶ名門、ナポリのサン・カルロ劇場アカデミーを、この6月に終了したのが、やはりメッゾ・ソプラノの金子紗弓である。その終了公演として、同劇場で上演されたチマローザ作曲『秘密の結婚』を現地で鑑賞したが、洗練された声も技巧も日本人離れしていた。
金子と話していて伝わるのは、「絶対に一流になる」という強い意志で、それがあるから自分の磨き方も違ってくるのだろう。音の紡ぎ方が脇園と似ているのは、二人とも往年の名ソプラノ、マリエッラ・デヴィーアの愛弟子だからだと思われる。金子は11月に日生劇場でマスネ作曲『サンドリヨン』に主演する。サンドリヨンはフランス語でシンデレラの意味だが、彼女は日本での「シンデレラ物語」だけでは納得しない。公演が終ったらすぐにイタリアに戻り、自己研鑽を続けるという。
日本の若者にとっての良きロールモデルに
脇園と同い年で、東京藝大院修了後に同時にイタリアに留学し、一時はルームメートだったのが、現在はスペインのバレンシア在住の加藤のぞみである。彼女もメッゾ・ソプラノだが、もっと声がドラマティックで、力強いレパートリーに向くタイプだ。たとえば、今年2月に東京二期会が上演した『カルメン』の題名役などで、日本の観客にも強い印象を残しているが、活躍の中心は欧米である。
6月にはサルデーニャ島のカリアリの劇場で、ドニゼッティ作曲『ラ・ファヴォリータ』に主演。世界的テノールのアントニーノ・シラグーザを相手に、力強いが洗練された世界水準の歌唱を披露した。加藤の歌にも日本人の癖がなく、知らずに聴けばラテン系のすぐれた歌手が歌っているとしか思えない。10月にも南イタリアのバーリで、ヴェルディ作曲『ドン・カルロ』のエボリ公女という大役に挑む。ちなみに、カリアリの劇場もバーリの劇場もイタリアの主要劇場である。
女性、それもメッゾ・ソプラノの活躍だけでもまだあるが、キリがないので男性も一人だけ紹介する。東京藝大を卒業し新国立劇場オペラ研修所を修了した井上大聞。多くのコンクールで優秀な成績を残し、ボローニャ歌劇場をはじめ多くの劇場で舞台を踏み続けている。日本人が苦手な滑稽味を醸し出す役も、言葉をたくみに操りながらハイレベルにこなす。
彼ら20代から30代の歌手たちの活躍もまた、大谷翔平や欧州リーグで活躍するサッカー選手らと同様、私たち日本人に元気をあたえてくれる。それだけではなく、強い意志をもって取り組めば結果は出る、ということを教えてくれる。
紹介したのはオペラの事例だが、彼らのような活躍が若者にとってのよいロールモデルとなり、多くの分野で日本人が外に羽ばたいてほしいと願う。このまま内向き志向が続けば、日本はもはや世界に伍していくことができなくなってしまうだろうから。
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