「最高時速320キロ」の新幹線で「荷物を運ぶ」サービスに熱視線が注がれる理由 “圧倒的なスピード感”“渋滞に巻き込まれない”だけではないメリットとは

ビジネス

  • ブックマーク

「はこビュン」、「東海道マッハ便」、「荷もっシュッ!」、「はやっ!便」──これらの名称から、どんなサービスを思い浮かべるだろうか。実はこれ、JR北海道、東日本、東海、西日本、九州の5社が手がける荷物輸送サービスなのだ。しかも荷物を運ぶのは「新幹線」。なぜ貨物列車ではなく、営業最高速度が時速320キロという新幹線がトラックのように日本の物流を担っているのか。JR各社に取材を依頼すると、興味深い流通ビジネスの最前線が見えてきた。(全2回の第1回)

 ***

 そもそも新幹線の歴史を遡ると旧国鉄の時代、書類など小さな荷物の輸送を依頼できる「新幹線レールゴー・サービス」が1980年代にスタートしている。例えば出版社では、特に大阪在住の作家やライターの原稿、カメラマンの撮影済みフィルムを新幹線で東京に送ることが少なくなかった。

 だが宅配便やFAX、インターネットの発達により、出版社が「レールゴー・サービス」を利用する機会は減少した。他の業種でも似たような経緯を辿った会社は珍しくないだろう。ところが2010年代に入り、新幹線で荷物を運ぶメリットに改めて注目が集まった。担当記者が言う。

「2017年、JR東日本が『朝採れ新幹線マルシェ』というイベントを開催します。山形のサクランボや福島のキュウリ、新潟の枝豆など各地の名産品を新幹線で運び、東京駅で販売したのです。何しろ新幹線は平均速度でも時速200キロ台ですから、高速道路を走るトラックとスピードの差は圧倒的です。その日の朝に採れた農作物を極めて新鮮なまま運ぶことが可能だと証明され、関係者から熱い視線が注がれるようになったのです」

 その後の動きを一部ご紹介すると、JR東日本やJR西日本が新幹線を使った魚介類の輸送などに取り組んだほか、JR東海が「貨客混載輸送」の実証実験を2020年10月から開始している。

評価された利便性

 2021年5月、JR九州が「はやっ!便」を博多駅と鹿児島中央駅の2駅間で始めると発表。続いて同年10月にJR東日本が「はこビュン」のサービス開始を発表した。この時点でJR北海道も「はこビュン」に携わっていたため、東京駅と新函館北斗駅間の輸送が可能になった。

 さらに同年11月にはJR西日本が山陽新幹線を使った荷物輸送事業を、2024年2月にはJR東海が「東海道マッハ便」のサービス開始を発表した。

 これでJR北海道の新函館北斗駅からJR九州の鹿児島中央駅まで日本列島を南北に縦断し、さらにJR東日本の新潟駅とJR西日本の金沢駅でもサービスが実施されることで太平洋側と日本海側も結ばれた。つまり“新幹線による全国物流ネットワーク”が完成したことになる。

「新幹線を使った輸送サービスは、基本的に法人を対象にしています。そもそも駅から駅までの輸送がメインですので、集荷や配達の手配は荷主が行う必要があります。法人の発注者側とJRの担当者が事前に打ち合わせを行って利用開始となるわけですが、JR5社がサービスを開始すると、その利便性が評判になりました。そのため『緊急の輸送にも対応してほしい』、『個人でも利用したい』といった要望が増えたのです。これを受けてJR5社は法人の当日受け付けを可能にしたほか、個人客はJR東日本とJR九州が対応を始めました。さらにJR九州の『はやっ!便PLUS』は福岡・熊本間、福岡・鹿児島間の輸送で、3駅から半径10キロ以内に限り集荷と配送を依頼できるほか、JR東日本も駅から30キロ圏内なら集荷と配送を行う有料オプションを用意しています」(同・記者)

次ページ:日本通運も新幹線を利用

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。