30代同棲カップルを毎夜悩ます“謎の赤ん坊”の泣き声 その矢先に「私、妊娠したみたい」……【川奈まり子の百物語】
盛り塩と判定薬
9月初旬のある日、仕事から帰ると、玄関ドアの外に盛り塩がされていた。先に帰宅した歩さんが供えたのだ。聞けば、仲の良い同僚に、謎の赤ん坊の声について話してみたのだという。
「盛り塩をして……あとはもう、さっさと結婚して子どもを作ったらいいって言われた」
「それはどういう意味?」
「幻聴だと思われちゃったのかな。私、そんなに赤ちゃんを欲しがっているように見える?」
赤ん坊を切望するあまり、幻の泣き声を聞いたのだという推理は、いかにももっともらしい。しかし歩さんが、そんな素振りを彼に見せたことは一度もなかった。2人とも妊娠・出産は計画的に行いたいと思っていたので、避妊には気をつけていた。
だが10月のとある日、和真さんが家に帰ると、歩さんが何か小さなものを持って呆然と座っていた。
「ボンヤリして、どうした? それは?」
「妊娠検査薬。生理が来ないから、まさかと思って検査したら陽性で。私、妊娠したみたい」
彼女がこう言ったその途端、激しい赤ん坊の泣き声が部屋に響きわたった。
「やめて!」
彼女が両手で耳をふさいだ。彼は大丈夫、大丈夫だよと彼女をなだめつつ抱き寄せ、
「うるさいぞ!」
初めてその声に向けて怒鳴りつけみた。だが、その泣き声がやむことはなかった。
***
止まらない赤ん坊の泣き声のなか、明かされた歩さんの妊娠。緊迫の【記事後編】では、隣人女性も登場するが……。
[3/3ページ]

