“辞めるなんてもったいない”はもう古い? 公務員「大転職時代」がやってくる…安定神話崩壊のリアルを当事者が明かす
2024年の正社員転職率が7.2%と過去最高水準を記録するなど、転職市場の活況が続いている。2025年に入っても、転職求人倍率は約2.4倍と高い売り手市場が継続中だ。特にIT・通信、コンサル、建設・不動産分野での求人増加が顕著で、専門職における需要が拡大している。そうした中、民間企業の社会人経験者枠の拡充により、これまで少なかった公務員の転職がじわじわと増えているという。総務省キャリア官僚から民間に転職し、現在は公務員向けの転職メディアを運営する「元官僚芸人まつもと」氏に聞いた。
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【写真を見る】元総務省キャリア官僚という異例の経歴を持つ「元官僚芸人まつもと」氏
公務員の転職が増えている理由
従来、終身雇用の“象徴”でもあった公務員。ひと昔前までは「公務員を辞めるなんてあり得ない」と言われていましたが、今では毎日のように公務員の方の転職相談を受けています。
相談に訪れるのは、国家公務員から地方公務員まで様々ですが、その数は年々増えている印象です。
以前までは現役公務員をあまり採用の対象者として見てこなかった民間企業が、ここにきてどんどん採用を進めている背景、それは「人手不足」の一言に尽きます。
ここ数年の民間企業における圧倒的な人手不足により、転職市場では「売り手有利」な状況が続いていることから、言葉を選ばず言うなら「公務員でも誰でもいいから来てくれ」と対象者を広げているということです。
ただ、「転職できる/できない」で言えば公務員の市場の評価はまだあまり高くありません。端的に言えば、基本的に誰でも転職はできたとしても、霞が関のキャリア官僚など一部を除けば、給料は今もらっている額よりも減ってしまうケースが多いのです。
特に給料が減りやすいのが、地方公務員が同じ地域の民間企業に転職するケースです。
理由は地方公務員特有の「働き方」にあります。例えば省庁の場合、厚生労働省なら医療福祉関係、文部科学省なら教育関係と、実際の仕事内容は多岐にわたるとはいえ、一応「ジャンル」としての“まとまり”があります。それが地方公務員の場合は、「何でもやる」ことになります。
例えば県庁職員の場合なら、「健康福祉部」とか「教育委員会」とか畑の全く違う部署を3~5年ぐらいのローテーションで異動することになります。そうした「ジェネラリスト的」な働き方は、転職市場において不利に働く。転職市場においてはやっぱりスペシャリストの方が評価されやすいためです。
公務員流出で行政サービスが回らなくなる地方自治体
では、給料が増えなくても転職を希望する地方公務員が増えているのはなぜでしょうか。1つはコロナ禍で進んだ民間企業の働き方改革があります。リモートワークや時差出勤など柔軟性のある働き方ができることに転職のメリットを感じる公務員が増えたのです。
そして深刻な問題にも繋がりかねない大きな理由が、公務員流出が招く残留組の仕事量の増加です。
公務員は不祥事を起こした際の懲戒免職のほか、勤務実績不良などを理由に退職させる「分限免職」という仕組みがあります。要は、働かない職員は公務の効率性の維持・向上のために退職させることができるという仕組みです。実際にはこの分限免職の判断はめったに下されません。つまり、働かないことを理由に公務員をクビにすることはかなりハードルが高いのです。
それで何が起きるかと言うと、「デキる人はどんどん転職していって、働かないおじさん・おばさんだけ残ってしまう」というあの現象が、民間企業以上に深刻化するのです。
「働かない公務員」は本当にびっくりするぐらい働きませんから、その結果、「働く公務員」の仕事がどんどん増えて職場のブラック化が進むことになります。「こんな仕事やめて転職してやる」という悪循環が起きているのです。
これに加えて、最近増えつつある、「公務員から公務員」への転職が本格化すると、本当に悲惨な状況が生まれることになります。つまり、人気のない自治体から他の多少はマシな自治体へと、公務員の流出が続いた結果、不人気な自治体は全く業務が回らず、事実上、公務が崩壊した状況へと陥っていくことでしょう。そして、こうした現象は特に過疎化の進む地域で顕著です。
つまり、地方公務員の流出が続く地域と、採用活動に問題のない地域とで、ますます地域間格差が広がっていくのです。数の減少は質の低下にも繋がります。少し前に岐阜県の自治体で、20代の女性職員が手続きに必要な書類を1000件以上も放置するという不祥事が発覚しましたが、転職市場で不人気な自治体では、今後こうした事例がどんどん増加していくことが予想されます。
行政サービスの回らなくなった自治体では、地域の魅力が損なわれ、そこに住む人がますます減っていくという負の連鎖が始まる。結果的にそれは、東京一極集中をさらに進めることに繋がります。
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