“辞めるなんてもったいない”はもう古い? 公務員「大転職時代」がやってくる…安定神話崩壊のリアルを当事者が明かす
転職のしやすい省庁/しにくい省庁
一方、国家公務員の転職事情には地方公務員とは異なる特徴があります。1つは地方公務員と比べれば、職務内容に専門性があるということです。
転職のしやすさは省庁によって異なり、転職しやすい省庁としては経済産業省や総務省、国土交通省、財務省などが該当します。逆に転職しにくいのは外務省、文部科学省、農林水産省などが当てはまります。
分かりやすい例では、国交省の出先機関で道路や河川の改修といった公共事業を地元の建設会社などに発注する仕事をしてきた人は、そうした企業で「窓口役」として重宝されます。役所内部の仕組みや動きが分かる人がいるといないでは、仕事の取りやすさが変わってきますからね。
逆に、外務省勤めでフランス語がペラペラに話せるけれど、民間企業とは一緒に仕事をした経験はないというようなパターンは、民間企業からするとほとんどニーズがありません。
ノンキャリアの国家公務員の転職理由として多いのは、「仕事のつまらなさ」です。キャリア官僚とノンキャリアの国家公務員の役割分担は、一般企業にたとえるなら「営業企画」と「前線の営業部隊」といったところでしょうか。前線部隊を動かすためのルールを考えるのがキャリア官僚で、そのルールに基づいて粛々と動くのがノンキャリアです。激務の度合いはキャリア官僚よりもマシとはいえ、仕事の内容は相対的にどうしてもつまらなくなってしまいます。
給料も民間より安くて、仕事もそんなに面白くないなら、転職してみるか、そう考える人が増えることは不思議なことではありません。
私が35歳で総務省を辞めた理由
対するキャリア官僚の転職も、近ごろはすっかり珍しくなくなりました。
キャリア官僚の転職理由としては、「裁量のなさへの不満」が多いように思います。
入省当時は「国を動かすぞ」と息巻いて入ってきても、「国」は大きいですから、実際はそんなに動かすことはできない。意思決定にはいろんな人たちが関わってきますし、その中で自分に割り当てられる領域というのは限りなく小さい。裁量なんていうものは基本的にありません。出世して偉くなれば、その裁量も大きくなるのですが、そこそこの地位まで出世するのに20年ぐらいかかります。何年か実際に働いてみると、その20年を我慢するのがいかに厳しいか分かってしまうのです。
また、業務スキルが身に付きづらいところも転職理由の1つです。今の若い人達は一生1つの組織に居続けるとは思っていません。したがって、組織に頼らず、自分の身に早く力を付けて、独力で仕事人として生きていけるようになりたいと思っています。東大京大の新卒学生の就職人気ランキングがコンサルで埋め尽くされるのはそういう理由です。その点で、キャリア官僚はコンサルなどと比べると、分かりやすい業務スキルが身に付かないですし、コピー取りみたいな何のスキルにもならない下積み仕事も多いわけです。
ブラックな労働環境も理由の1つです。「国会対応」のイメージが強いかもしれませんが、それ以外でも労働時間は長いし、パワハラとかも平気でありますから、民間企業と比べると後れていると言わざるを得ません。
給与面での不満を理由に転職する人も多いです。私が35歳で総務省を辞めた時の年収は600万円ぐらいでした。今は残業代がちゃんとつくようになったので、おそらくプラス100~150万円ぐらいはもらっていると思います。しかし、それでも35歳の総合職の待遇としては少し低く感じます。
人事院の勧告により、2025年度の国家公務員の月給は前年比で約1.5万円高くなり、本省で働く40歳室長では年収が初めて1000万円を超えることになりましたが、同じ大学を出た同窓生たちが務める民間企業と比べると、「自分の方がもらっていない」という人はまだまだ多い。
また、公務員特有の制約も転職の動機になっていると思います。副業は禁止されていますし、省庁や部署によっては株の取引もできません。もっと小さい話だと、例えば外にお酒を飲みに行っても、周囲が気になってあまり仕事の話はできません。官僚だと分かると“ご意見”を頂戴したり…気が休まらないのです。
転職後は「これでやっと息ができる」と感じたのを覚えています。
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