「平均年収2000万円超えの会社も」 美談の裏で“金銭トラブル”横行「M&A仲介会社」の驚くべき「光と影」

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 事業承継によって技術や雇用を未来へつなぐ――。国をあげて推奨され、メディアにも肯定的に扱われることの多い「M&A」(Mergers and Acquisitions/合併と買収)である。しかしその裏側に目を向けてみると、「金だけ奪われ、会社は倒産に追い込まれた」などといった、悪質な買い手企業によるトラブルが横行している。こうした問題の本質を探ると、買い手と売り手を仲介する事業者の無責任な体質が垣間見える。軒並み高年収で知られる「M&A仲介会社」の“光と影”に迫った。

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 東京都内で専門商社を営む、さる経営者が言う。

「うちは全従業員が十数人程度の小さな会社なのですが、ここ数年で2社買収した実績があるからか、いわゆる『M&A仲介会社』の方から営業の連絡をよくいただきます。話を聞いてみると、仲介手数料は最低成功報酬として2500万円、しかも私ども買い手側だけでなく、売り手側からも同額の報酬をもらうと言われて驚きました。仲介会社って、本当にそれだけの仕事をやっているのでしょうか」

 後継者不足に悩む事業者が増え、技術や雇用を次世代へつなぐ手段としてM&Aが国を挙げて推奨される時代になった。テレビや新聞でM&A仲介を美化する広告を目にしたことがある人も少なくなかろう。

 こうしてある種の“希望”のように扱われてきた世界であるものの、その裏に潜む“闇”の部分が明るみに出てくるようになったのはここ1年ほどのことだ。

「悪質な買い手企業だと気づかずに会社を売却してしまった結果、ひどい金銭的被害に遭ったり、倒産に追い込まれてしまったりしたケースが相次いでいます」

 そう語るのは、M&A仲介をめぐるトラブルについて第一線で取材を続ける、朝日新聞記者の藤田知也氏。これまでの膨大な取材の成果をまとめた新刊『ルポ M&A仲介の罠』(朝日新聞出版)を7月に上梓し、大きな話題を呼んでいる。

「たとえば、短期間に30社程度の中小企業をM&Aで傘下に収め、その多くでトラブルを引き起こした投資会社があります。中小企業の事業を引き継ぐや否や、『必要なときにはお金を返すから』と、現預金の多くを自社の口座に移させておいて、実際に必要なときにお金はなかなか返ってこない。ゆえに給与や取引先への支払いなどが滞り、倒産に追い込まれた会社も少なくありません」

 この投資会社はルシアンホールディングス(以下、ルシアン社)といい、当初は「コロナ禍で弱った会社を買収して事業を拡大する」という展望を掲げていた。しかし無理な買収を続けるうちに、キャッシュが不足したのだろうか。新たに買収した会社から資金を引き抜いては、以前に買収した会社での未払いなどにあてるということを繰り返すようになったのだという。

「被害に遭った売り手企業の経営者の中には、退職金や貯金を従業員の給与にあてたり、資産を売却しても返しきれないほどの債務の連帯保証を抱えてしまったりした人もいます。しかし一度買収されて買い手の会社となっている以上、法的な責任を問うハードルは高い。巧妙かつ悪質な手法が繰り返されてきたわけです」

 代表者はすでに行方をくらましていて、どの“被害者”も連絡はとれないままだ。

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