「平均年収2000万円超えの会社も」 美談の裏で“金銭トラブル”横行「M&A仲介会社」の驚くべき「光と影」
仲介会社の「無責任」
かようなまでに悪質な買い手企業の振る舞いに、衝撃を覚える方も多かろう。一方で藤田氏は、「問題の本質は別のところにある」と指摘する。
「悪質な買い手企業に問題があるのは言うまでもありませんが、着目すべきなのは、そのような企業を『売り手』に紹介しておきながら、“成約後”にトラブルが起きても関知せず、高額な“成功”報酬を得たままの仲介会社が何社もあるということです」
買い手・売り手双方に問題がないかを事前によく調べ、トラブルが起きない対策が徹底されている――。多額の報酬を得る仲介会社なら、そのくらいの期待は持たれても当然だろう。だが悲しいことに、理想と現実は異なるようだ。
「昨年春に最初の報道が出るまでは、会社の財務状態をろくに調べていない仲介業者が大手も含めてたくさんありました。売り買いされる売り手側の対象会社は念入りに調べるのに、買い手の調査はネットで軽く検索したり、口頭で『資金は潤沢』と言われたのをうのみにしたりしていた例もありました。なかには、支払いを踏み倒すような悪質な買い手だと知りながら、売り手に紹介して成約させた“悪徳業者”も……。この1年ほどで改善が進んだとはいえ、まだ道半ばだと思います」
M&Aは「一度きり」となることの多い売り手と比べ、買い手側はリピーターとなって仲介会社にとっては“上客”になる可能性がある。よって、本来は中立であるべき仲介業者が買い手のほうに肩入れしやすい構造があるのだと藤田氏は言う。ルシアン社が多くの仲介会社から案件を持ち込まれる存在であったのも頷ける。
平均年収“2000万円超え”の仲介会社も
こうした「無責任な仲介」がなぜ横行するのか。原因はそのビジネスモデルにある。
「仲介会社にとっては『成約=ゴール』となりやすい。一件の仲介が決まるたびに、仲介会社は多額の仲介手数料を稼ぎ、その一部が成果報酬として給与に上乗せされるようになっています。仲介会社の給与が軒並み高いのは、成約するたびに多額のインセンティブがもらえるからです」
藤田氏の新刊によると、各社の「平均年収」は、日本M&AセンターHDは1182万円(24年3月期)、M&Aキャピタルパートナーズは2277万円(24年9月期)、ストライクは1608万円(24年9月期)と、いわゆる業界の“御三家”は軒並み国内企業トップクラスの水準を誇る。
そのような“境遇”を考えれば、血眼になって売り手・買い手となる企業を見つけた結果、どちらかに不安材料が見つかったとしても、それをもって仲介を断念するのは容易でないことも想像できる。多少の懸念には目をつぶってでも、成約さえしてしまえばそれが個人業績となり、そのままボーナスに反映されるわけだ。
「業界に吹く追い風を受けて、各社が好待遇で営業担当者を採用しています。M&Aの知識を兼ね備えた人だけではなく、いわゆる“営業で稼ぐ会社”からやってくる人も多い。それが一概に悪いなんてことはありませんが、皆が皆“M&Aのエキスパート”かというと、必ずしもそうではない実態がありそうです」
まして、事業者に必要な免許などもないため、仲介業を営む企業は600社を超えるともいわれる。もちろん、買い手・売り手双方にとって有益なM&Aが実現したケースも無数にあるだろう。だが無責任な仲介が横行したことでトラブルが多発しているのは紛れもない事実。文字通り“玉石混交”の世界なのである。
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