「平均年収2000万円超えの会社も」 美談の裏で“金銭トラブル”横行「M&A仲介会社」の驚くべき「光と影」
トラブルの「事例」と「原因」を知り、わが社を守る
藤田氏の報道を端緒にこうした業界の課題が浮き彫りになり、中小企業庁がガイドラインを改定するなど、改善への歩みは始まったかに見える。しかし法規制があるわけでもなく、同庁の登録制度に名を連ねず、監視の目が行き届かない仲介会社も少なくない。
では、これから事業の引き継ぎを考える事業者が、悪質な買い手企業の買収に巻き込まれるのを防ぐにはどうすべきか。
「まずは、トラブルの事例を具体的に知っておくことが役に立ちます。そこから浮かぶ原因の一つは、『買い手企業に対する事前調査』が不十分で、買い手の実態をよく知らずに契約していることが挙げられます。数年分の決算書を取り寄せて財務状況を確認するのはもちろん、どんなビジネスモデルでどのように収益を得ているのか、これまで買収した会社はどのように運営されているのかなど、買い手にふさわしいと納得するまで自ら質問したり確認したりするのがよいでしょう。わかったふりをするのは禁物。仲介会社をアテにしすぎず、自分の目で確かめて納得することが大事です」
そしてもう一つ、重要なポイントは、中小企業などが金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となる「経営者保証」が確実に外れるよう手続きを踏むことだ。
「これまでのトラブルでは、契約上は『数カ月以内に経営者保証を解除する』と約束されていたはずが、実際はなかなか解除されず、資金を引き抜かれて倒産した挙げ句、多額の債務を前の経営者(売り手)が負わされるという悲惨なケースが目立ちます。金融機関には事前に相談し、M&Aの決済(クロージング)と同時に保証解除の手続きも完了させることを原則とすべきだし、それができないようなら融資の全額返済を同時に済ませる手などもある。大事な条件は『事後』の約束に回してはいけません。そうした提案を持ちかけられたら、立ち止まって考え直すくらいの慎重さが必要です」
藤田氏の新著では、ルシアン社以外の事案も多数紹介しているというが、まずはこうした“問題事例”を把握しておくだけでも、強い防衛策となるであろう。
「あとはやはり、事業を引き継いだ後の話を、できるだけ具体的に交わしておくことです。買収後は資金を誰がどう管理するのか、前の経営者が担っていた仕事は誰がどう引き継ぐのか、引き継ぐ人とはどのような人なのか、いろんな点を丁寧に議論して確認し、買収後の会社の姿を具体的にイメージできるようにしておけば、買い手側との“認識の齟齬”は生じにくくなるはず」
そして最後に、こう付け加える。
「双方にとって良いM&Aもたくさんありますし、誠意と知識を兼ね備えた仲介会社の担当者も少なくないでしょう。しかし残念ながら、不幸なM&Aをもたらす雑な仕事をする仲介が完全になくなることもないでしょう。多くの方にこのような実態を知ってもらい、業界もレベルアップしてより良い方向に変わっていくことを願っています」



