「その人がそのままでいられるように」自分ではなく「世界」を変える 名物編集者が語る「ケアと編集」の極意
自分の主体性が世界を統御しているのか?
「『中動態の世界』は、文法で習う能動態/受動態の世界の外に、中動態の世界があると『発見』する話で、広い分野から大きい反響がありました。この本には、『本当に自分の主体性が世界を統御しているのか?』という壮大な問いが含まれています。たとえばアルコール依存症の人は、いくら自分の状態を説明しようとしても、『つまりはあなたが飲みたいと思って飲んだのでしょう?』『最終的にはご自分の意思ですよね?』と周囲から思われることが多いものです。そのとき、國分さんの中動態という考え方があると、依存症者の苦しみにもっと近づくことができます。ケアを考える際の新たな視点をもたらした、革命的な本だと思います」
「ケアをひらく」は、医療・看護・介護など専門職従事者向けに刊行が始まったが、意外や一般の読者が多くついて、人気シリーズとなっていった。編集者の立場としては、読者対象をどう想定していたのだろうか。
「明確に読者対象を思い描いてつくっていたわけではないのですが、あるとすればいつも、少数派の人を想定していたかなとは思います。あらゆるジャンルにおいて、自分の声がなかなか通りづらい立場の人は、存在しますよね。障害を持つ人や女性の方は、少数派になることが多いかもしれません。そういう方々に読んでもらえるものを目指していたところはあります。
少数派に照準を合わせていては、出版事業として立ち行かないのでは? と心配されることもありますが、どんなジャンルにも少数派はいるので、それらが集まればたくさんの数になります。限られたジャンルの多数派をねらうよりも、いろんな場所の少数派に振り向いてもらうほうがいい。そんな方針でやってきたわけです。
とはいえこれも当初から計画していたわけではなくて、現状を肯定してみれば、そう考えられるというまでです」
「ケア」がもたらすのは自己と他者への向き合い方の大きな変化。世界を見る視点が変わること請け合いである。
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