「その人がそのままでいられるように」自分ではなく「世界」を変える 名物編集者が語る「ケアと編集」の極意
『ケアと編集』を通して語りたかったこと
白石氏の著書のタイトルは『ケアと編集』。ケアと編集は、同じもしくは近しい概念である、ということだろうか。
「出版の仕事における編集にもさまざまな方法があって、ひとつは著者の文章をバリバリ直して活字に仕立てていくやり方。これは治療的編集、もしくは医学的編集だと言えます。ですが、僕が編集の仕事をするときにはこの方法はとらず、文章を直したりするところにはあまり目を向けません。
それよりも著者の文章が、それそのものとしてより際立つ企画や構成の枠組みを考えていきます。いわばケア的編集、またはソーシャルワーク的編集です。自分としては、ケアと編集を近いものとして捉える、ソーシャルワーク的編集者でありたいと思っています」
『ケアと編集』も、ソーシャルワーク的編集によってつくられた一冊であるという。
「あらかじめ目次をきっちり固めたりせず、まずはどんどん思うまま書き進め、あとから全体の構成を整えました。本書の第3章は『ケアは現在に奉仕する』と題して、一冊の肝となることが載っていますが、書き始めたときにはこの考えを思いついてもおらず、章自体が存在していませんでした。
本を書いていくなかで浮かび上がってきたことはほかにもあって、受け身の姿勢でいることをポジティブに語りたいという思いも、そのひとつです。僕らは教育現場でも仕事のうえでも、『主体的に考え、能動的に行動しましょう』という姿勢が、よきものとして刷り込まれていますね。自分はまったくそういうタイプじゃないので、僕はこの考え方が苦手です。
そんなにがんばって自己を打ち出すよりも、まずは他者を受け止めることを重視したほうがいいんじゃないかと、つい考えてしまいます。他者を“受信”して、自分の内側にためていくと、そのうち外に出てくる。そうして自然なかたちで発信をしていくほうが、人によく伝わるものとなるのではないか。『ケアと編集』を通して語りたかったのは、そういう受け身の姿勢や考え方です」
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