「スマホは1日2時間」「ゲームは1日1時間」 権力者が人びとを規制する「トンデモ条例」にびっくり(中川淳一郎)

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 愛知県豊明市が、仕事や勉強以外での余暇におけるスマホ・タブレットの使用を1日2時間以内とする条例を10月1日から施行する見通しです。スマホの中毒性が高いのは分かりますが、珍条例だと私は思います。

 罰則がないとはいったって、生活スタイルをお上に指導されたくないです。

 小学生以下の使用は21時まで、中学生からは22時までが目安で、ゲーム機器やパソコンも対象です。これ、1980年代中盤に小学生から絶大なる人気を誇り、ハドソンの広報担当でもあった高橋名人が「ゲームは1日1時間」と言ったことの模倣かと。後に高橋名人に取材した時、イベントの際には子どもばかりか親も来ているから何か道徳的なことを言わねば……と根拠もなく「1時間」と口にしたと教えてもらいました。

 思い出すのが2020年4月に香川県で施行された「ゲームは1日1時間」条例です。全国ニュースになりました。これを提案した議員は高橋名人を信奉していたのでしょうか?

 しかし、すでに高橋名人は根拠の存在を否定しており、そもそも新しいゲームを買った日に1時間でやめられません。オンラインで協力プレーをしていて「あ、1時間たったんでオレ、ここでやめるわ。香川県に住んでるんだよね」なんて言う者は絶対におりませんッ。

 政治家だからとて立派なはずもなく、トンデモ条例を発想するような人もいるワケです。そして実際、ありましたよ。20年9月、東京都議会に対して都民ファーストの会が「新型コロナ感染者や事業者が、就業制限や外出自粛・休業要請に従わずに感染を広めたら過料5万円以下を科す」という条例を提案した一件です。

 感染者は感染など望んでないし、他方で誰が感染源なのかも分かりっこない。仮に感染者が出たとして、あの時山田さんが咳をしてたな、彼が怪しい!という程度しか根拠はないんです。

 でも、下手すりゃ5万円。

 トンデモ条例が滑稽なのは、その条例の施行はその自治体に暮らす人にとって良いことである、という正義を前提にしているところにあります。が、そこには個々人の趣味嗜好や思想の自由という観点がスッポリと抜けているのです。各々スマホは2時間くらいでやめませんかね、で議論は終了するはず。なのに、権力の側が人々を規制しようとするなんて、と思います。

 昨今「四毒」を抜く食生活を提唱する人が案外います。小麦、乳製品、植物油、甘い物を摂取しないことが体にいいという考え方ですが、あなたが実践するのは勝手ですけれど、いちいち他人に推奨しないでくれよと。この手の人は飲み会の席でも「あ、オレ、チヂミ食えないの」なんてドヤ顔で言います。あと禁酒に成功した人間が酒を憎むようになり、飲酒者に「酒なんて飲まなくても人生楽しいんだよね~」などとマウントを取ったりも……。

 さて、条例で印象深いのは豪雪地帯として知られる新潟県中魚沼郡中里村(現・同県十日町市)の「雪国はつらつ条例」です。大雪を前向きに捉え、観光資源にするという目的の取り組みですが、あろうことか中学生向け教科書で「雪国はつらいよ条例」と、トンでもない誤植をされました。

 条例こそ「つらい」です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年9月11日号掲載

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