「私が留守番電話を入れた時間に、向田さんは飛行機事故に…」 黒柳徹子さんが明かす、向田邦子さんとの秘話 今でも作るという「向田さん直伝のレシピ」とは

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【全2回(前編/後編)の前編】

 黒柳徹子さんが上梓した『トットあした』(新潮社)は、出会った人たちの言葉を振り返りながら半生をたどり直した自叙伝だ。同書で紹介された3人の女性にまつわる、今では失われたような豊かで、人間くさくて、明るいエピソードを改めてご本人が語ってくれた。

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“禍福はあざなえる縄のごとし”という言葉の意味を確認したのが、向田邦子さん(作家、脚本家)と交わした最初の会話でした。

 お会いしたのはTBSのスタジオで、向田さんがあるラジオドラマのシナリオを書いていて、私はそれに出演していました。その頃私は30歳くらい、向田さんは四つ年上です。彼女は当時から筆が遅くて、その日も締め切りに間に合わず、局まで来て書いていらしたんですね。

 シナリオを書き上げてホッとしたのか、向田さんから話しかけてくださった。そこで私は読んだばかりのシナリオにあった“禍福は……”の意味を、大体は知っていたけど、それで合ってるかしらと思って尋ねると、こうおっしゃいました。

「人生では、幸せと災いは、かわりばんこに来るの。つまり、幸福の縄と不幸の縄とをよってできているのが人生だ、ということじゃないかしら」

 私は楽天的な性格ですから、「幸せの縄2本で編んでいる人生はないの?」と聞いたら、言下に「ないの、ないのよ!」って強い口調でおっしゃったんです。

「いつか私以外の誰かのためにも役立つかもしれない」

〈そう語るのは黒柳徹子さんだ。黒柳さんが6月に上梓した『トットあした』で、ご自身の「あした」をつくってきた23人の言葉が紹介されている。向田さんもその一人で、ほかにトモエ学園校長の小林宗作さん、永六輔さん、久米宏さん、アラン・ドロンさん、渥美清さんなどが登場する。彼らの言葉を紹介しながら黒柳さんの半生を振り返る趣向だ。

「いろんな人からかけられた言葉で、救われたり、励まされたり、自分という人間が何となくわかったりしたことは、これまでに数えきれないほどありました。私はそれを記憶に刻みこむだけで、メモにとることもせずにきました。でも、本に書いておけば、そんな言葉がいつか私以外の誰かのためにも役立つかもしれないと思ったんです」

 ここでは、向田さんを含め、本書にも登場する女性3人に絞って、思い出を語っていただいた。

 向田さんを巡る話の続きは……。〉

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