「私が留守番電話を入れた時間に、向田さんは飛行機事故に…」 黒柳徹子さんが明かす、向田邦子さんとの秘話 今でも作るという「向田さん直伝のレシピ」とは

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電話で長話をする間柄に

 ものすごい部屋でしたけど、森さんはまったく気にせず、「散らかってて、ごめんなさいね」などとも言わない。私も気になりませんでした。ハッと思うと、もう4時間も話し込んでいました。森鴎外のこと、お見合い写真をきれいに修整しすぎて、きっとお相手をがっかりさせたこと、パリ生活のこと、そしてすごい想像力で語られる夢のような美しい話にずっと驚かされていました。

 その夜以来、電話で長話をする間柄になりました。必ず深夜にかかってくるから、森さんだ、と分かるんですね。私はチョコレートの箱なんかの甘い物を用意して、つまみながら何時間も話していました。

「今日は息子のジャックが恋人を連れてきて、私のベッドの下で、半日ささやきあっているの。パパのハヴァナ産の葉巻の箱に描いてあった絵の女神に似た恋人の膝を、ジャックが抱きかかえるようにしてね。もう、うんざりしちゃう……」

「彼女が想像力や美意識を発揮するときは……」

 あのすごい部屋を私が知っていることなんて、まるで気にかけずにそんな話をするんです。つまり、彼女が想像力や美意識を発揮するときは、そんな現実は完全に消えているんですね。

 一度、森さんから手紙をもらったことがあって、書き損じの封筒が使われていたんです。だからニューヨークへ行ったとき、きれいな紺色の縁取りのある便箋と封筒を見つけたので、Mariと名前を入れて送って差し上げたら喜んで使っていらした。

 次に外国に行くときにも、また素敵なレターセットを買ってきますねと約束したんですけど、私が帰国する前に亡くなられました。あの部屋で孤独死したと聞きましたけど、それも何だか森さんらしいな、と思いましたね。

 後編【「あらかじめ神様が選んだご夫婦だった」 黒柳徹子さんが「父さん」「母さん」と呼んで慕った夫婦との思い出】では、俳優・沢村貞子さんと大橋恭彦さん夫婦との交流について語ってもらった。

取材・構成/ノンフィクション・ライター 西所正道

週刊新潮 2025年9月4日号掲載

特集「『トットあした』―刊行記念― 懐かしき向田邦子、森茉莉、沢村貞子…『黒柳徹子』が語る“とっておき秘話”」より

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