「老後は海の近くで暮らしたい」の夢が砕かれた“賃貸派”61歳女性の大誤算 不動産屋のひとりごと「バブルを謳歌したキリギリスたち」

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【前後編の前編/後編を読む】バツイチ独身サラリーマンが定年間近に計画した“無謀すぎる”不動産経営とは

「老後は海の近くで暮らしたい」の夢が砕かれた“賃貸派”61歳女性の大誤算 宅建ライターが見た「バブルを謳歌したキリギリスたち」

 今年、2025年からバブル世代男女の定年退職が一気に増加する。定年後には収入が減り、今までのような優雅な暮らしは難しくなるが…。平成末期から不動産事情を見つめてきたライター兼宅地建物取引士のM・M氏が、最近増加中の“バブル世代の珍トラブル”事例を教えてくれた。まず登場したのはバブル初期にイケイケの銀行系だった女性で…。

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 バブル世代には“賃貸派”が意外と多いのですが、不動産業界ではそんなバブル的思考の帳尻が合わなくなってきている場面にたびたび遭遇します。

 私がお世話した中でも強烈なインパクトを残しているのはトミコさん(61歳=2020年当時)、独身。若い頃は銀行系の関連会社に勤務し、旅行が大好きで年に2~3回、海外旅行に行き「仕事帰りに若い男の子たちと飲みに行くのが楽しかったのよ」という方で、現在はクリーニング店の受付でパート勤務されています。アパートが取り壊しになるということで引っ越しの相談を受けました。

「老後は湘南の海の近くに住みたいわ。だからいいの。とりあえず数年住めれば」

 バブルっぽく、そんな風に軽く考えていたトミコさんですが、お部屋探しは難航。パートは常勤で、社会保険にも入っているし、家賃が収入に対して不相応なわけでもありません。なのに、申込書を送っても年齢を理由に断られたり、管理会社の不動産屋に呼ばれて面接したものの「NG」をくらうなど、けんもほろろ。

 問題は年齢です。見えない60の壁に阻まれ、審査は通ってもオーナーが嫌がる。つまりは事故物件になるリスクで、特に老夫婦より独居老人のほうが嫌がられます。

 もしも急死して発見が遅れたら、原状回復の費用は莫大、資産価値はダダ下がり、「告知事項アリ」のコメントつきになります。

 そうでなくても普通賃貸だと借主有利で退去してもらうのはなかなか大変なので、面倒な客を入れたがらない。都会の駅近物件なら、そんな人より条件のいい借主を選ぶというわけです。

 本人は仮暮らしなので「木造アパートでいい」と豪語していましたが、また取り壊しになると大変だから…と説得して希望を軌道修正、駅近で狭い鉄筋マンションを提案したところ、ようやく審査が通り一安心しました。その部屋は投資物件で、オーナーが早く入居させたかったことが功を奏したようです。

 契約も終え、あとは引っ越しと思いきや、荷作りがなんと当日間に合わず、1週間後にリスケ。資産価値のない服多すぎ、でも処分できない、段取りもできない…。

 そんなトミコさんの計画性のなさに、またもバブルっぽさを感じました。

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