「老後は海の近くで暮らしたい」の夢が砕かれた“賃貸派”61歳女性の大誤算 不動産屋のひとりごと「バブルを謳歌したキリギリスたち」
2度目の更新にトラブル
転居からあっという間に4年が経ち、2度目の更新を迎えました(ほらね、仮暮らしなんて無理だった)。ところが一向に更新の書類が届かない。しかも、トミコさんは区の家賃補助を受けていたので、更新した契約書のコピーを提出する必要がありました。管理会社に電話をするとガチャ切りされ、電話がつながらない。そこで私に相談が来ました。こうした複雑な案件に対峙できないのはお歳のせいなのか、バブル世代のせいなのか。
そういえば、この4年の間に管理会社が代わりました。私が設備の交換について交渉したときも、その対応に“学生起業家的な素人っぽさ”を感じていました。たしかに電話はつながらなくなっていたので、ホームページを見ると「NOT FOUND」…企業ページが消えている。
「家賃、振り込んだほうがいいかしら?」
そう言うトミコさんを制止し、私は登記簿からオーナーの住所と氏名を調べ、オーナーに管理会社と連絡がつかないこと、家賃が入金されているか確認して欲しい旨、お手紙を書きました。
悪い予感は的中、オーナーが所有する他の物件を管理している不動産屋から連絡がありました。管理会社がトンズラし、オーナーは家賃2か月分持ち逃げされたのでした。トミコさんは更新の際に来月分の家賃も払おうとしていたので4か月分持ち逃げされずに済んだのは不幸中の幸いといえます。
オーナーは、安い管理会社に任せて利幅を上げようとしたのがアダになりました。不動産業界は契約する際の仲介手数料が売上のメインで、賃貸管理だけで儲らない。この管理会社、所在地は東京駅至近のシェアオフィスで、賃貸管理だけやっている起業して2年に満たない“なんちゃって管理会社”。管理会社は免許不要なので、学生起業家あたりが浅はかにも“これなら儲かる”と思ったのでしょう。結局、オーナーは物件を手放し、オーナー側の管理会社が買い取り、オーナーチェンジを経て落ち着きました。
バブル世代の老後は
さらに1年後、トミコさんは肺がんが見つかり、放射線治療と抗がん剤治療を受けました。根っからの楽観主義でがんは克服しましたが、私がプライベートバンカーにお世話になって株を買っているとチラッと話すと、食い気味で紹介して欲しいと言う。ところが「夢のある会社が好きなの、ディズニーランドの株がいいわ」「抗がん剤にお世話になったから、抗がん剤の研究開発している企業の株を買う」と、お金を増やしたいのか、夢を買いたいのか…。あいまいな方にはご紹介できないので、はぐらかしました。
老後3,000万円は必要と言われている今、貯金は1,000万円以下だそう。厚生年金があるとはいえ、会社員の夫を亡くした主婦のほうが年金は高い。バブル世代は生活水準を下げられない生き物ですし、東京23区内在住でこの軍資金では不安です。最近、がんが再発し、新たな薬で治療をすすめているトミコさん。それでもバブル的「根拠のない自信」で、将来を不安に思わないのはいいことですが…現在66歳、国民健康保険で収入も下がった今、「湘南に住みたいわ」と言われても…。リモートワークで週2,3日出社で済むようになったこともあり、湘南エリアは家賃も高騰。もう審査は通らないと思います。
不動産屋は高齢者と金払いの悪い人は相手にしない業界。「ゆでガエル理論」ではありませんが、持ち家のないバブル世代は、徐々に家賃が生活を逼迫し、気づいたら生活が立ち行かなくなる日もそう遠くないんじゃないかと思います。
【記事後編】では、さらに脳内バブルが終わらないバツイチ独身サラリーマンが登場。マンション経営の夢は…。
[2/2ページ]

