「自主学習は適当なネット記事のコピペで」 “タブレット教育”が学校現場で引き起こしている驚くべき弊害

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AI時代に「計算力」は身につける必要がないのか

 Aさんの不安は自由裁量のレポート課題にとどまらない。学校の先生が授業で発したある言葉が引っかかっているのだ。

「これからの時代、計算力などの基礎的な能力はAIが代替してくれる。だから計算力以外の力、たとえば課題解決能力を身につけよう」というようなものだ。

 実はそのような考えをもつ現場の先生は少なくない。筆者がこれまで書いたデジタル教育に関する記事にも、「文明の利器を否定し、今さら馬車に乗ろうと主張するのか」と、「課題解決能力重視」の声がいくつも寄せられている。

 子安氏はこの「AIが基礎的な能力を代替する論」はそもそも文科省が否定していると一刀両断する。

「教育課程企画特別部会の議論で『計算力そのものをAIで代替しよう』という報告が出たことはありません。計算力をつけるためにAIを活用しようというアイデアは存在しますが、『子どもに計算力は必要ない』と結論づけた例は少なくとも今のところまだありません」

「もちろん、これまでも中学校や高校では個別の計算で電卓を許可する例はありました。ただ、計算式を立てたり、計算式を立てた理由を答えたりする能力をAIにやらせると、それはもう子どもの回答ではないでしょう」(子安氏)

 当然だが、長方形や平行四辺形など図形の面積の求め方が分からない子どもが、計算式をAIに聞いて結果をそのままコピペしただけでは「計算力」がついたことにはならない。底辺と高さを正しく見極める原理原則が頭に入っていなければ、AIなしで同様の問題を解くことはできないからだ。

「今日の心の天気」で「雷」は絶対に選ばない理由

「個別最適な学び」を支えるのは、デジタル端末を活用した学習サポートにとどまらない。子どもの学習履歴や行動記録を「データ化」し、子どもの傾向を細かく知ることも重要だとされている。

 現に埼玉県戸田市はこども家庭庁から受託し、「1万2000人の児童生徒のデータを分析して、子どもが不登校になる可能性を数字で可視化」する実証実験を行なっている。

「教育履歴をビッグデータ化し、データから得られた知見を現場の指導に落とし込んでいく」という事象はすでに現場で見られると子安氏は語る。

「大阪府のある公立中学校の先生から聞きましたが、毎日一定の時間にタブレット端末を開き、アプリ上で『心の天気』を入力するという時間がすでに存在するようです。晴れ・曇り・雨・雷の4つから今の気持ちを入力するようですが、生徒によっては『雷を選択すると、後で先生に呼び出されて面倒だから絶対選ばない』という子どももいるそう」

 子安氏は、教育データを現場で利活用する発想そのものは否定しない。そもそも「子どものデータ」という概念が存在する以前から先生にとって、子ども一人ひとりの性格を熟知し、それに合わせて教室を運営することは重要な能力だったというのがその理由だ。

一方、AIによる子どもの行動分析は過去のデータによる「類型化」という罠を逃れることができず、あくまで統計の範疇を出ないことを意識すべきだとも説く。
 
「子どもは過去に事例がない成長を遂げたり、逆に誤った道に進んだりするものです。『過去のデータによると、不登校になりかけている子どもにはAという対応が効く』とAIに教えられて、それを盲信するのは危険でしょう。同じ不登校という行動ひとつとっても、子どもが感受する経験は千差万別です。データも重要ですが、目の前の子どもとコミュニケーションを取り、具体的な心の揺れを掴んでおく方が有用だと思います」

 ここまで見てきたよう、デジタル端末とデータを活用した「個別最適な学び」は、現場で正しく実践するには相当にハードルが高い。文科省が掲げる理想と先生が毎日行う授業の間には、大きな乖離が存在するからだ。

 デジタルがもたらす新たな教育効果をフルに実現するためにも、このギャップをどのように埋めていくか。まずは「理想と現実には差がある」ことを確認することが第一だろう。

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デイリー新潮編集部

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