「自主学習は適当なネット記事のコピペで」 “タブレット教育”が学校現場で引き起こしている驚くべき弊害
「個別最適な学び」の落とし穴
子安氏によると個別最適な学びとは、2021年に文科省の諮問機関である中央教育審議会の答申「令和の日本型学校教育」の中で示された概念で、学校教育に基盤的なデジタル・ツールを利用するなどして、子どもの特性にあった教育を行うことを指す。
子どもの学力や特性にかかわるデータを総動員し分析・活用することで、集団での授業による画一的な教育の脱却を目指す。デジタル端末やデータを駆使して、一人ひとりにピッタリはまる「オーダーメイド」な指導を行うとともに、子ども自身が個性を存分に発揮して学習を自らデザインしていこうというのが「個別最適な学び」の要旨である。
この個別最適な学びを教育現場で推進する上で重要になる教育方法が「自由進度学習」である。自由進度学習とは、子ども自身が学ぶ内容やペースを決める手法で、すでに学校に取り入れられはじめている。
自由進度学習とタブレット端末を使った課題の相性は抜群である。何しろアナログの現場で必要だった教師と生徒の双方向の細かいコミュニケーションがいらず、タブレット一つで進捗を管理できるからだ。
「タブレット端末でレポートにまとめる」という課題は、まさにこの「個別最適な学び」というアジェンダを達成するための自由進度学習の一環だったわけだ。
いくら「自由」にネット検索できるとはいえ、正しい検索方法に無知でネットの「毒」への免疫がなければ、小学生の子どもに教育目的で使わせるのは心配だ、と感じるのは親心であろう。現場の先生は、この課題に関してどのように指導しているのだろうか。子安氏は、
「まずレポートの評価で言えば、昨今は生成AIのコピペ対策を警戒するあまり『独自性のある文章か』『文体がその子どものものか』といった表現の質が最優先されます。つまり『どのように情報を調べたか』『情報の精査をしたかどうか』といったプロセスの評価は二の次になっています」
一方、子安氏は現場の先生だけを責めることは酷だとも指摘する。
「特に今の教育現場は教師の裁量が年々狭くなっていて、学習指導要領と学校が決めるカリキュラムにはとりあえず従うしかないのが実情です。自由進度学習は学校にとっても比較的新しい教育手法ですから、評価の方法もかなり画一的なものになっているのでしょう」
実際、Aさんが懸念を先生に伝えた際「仰っている意味はよくわかります」と返答があったそう。
「先生方も毎日『これで本当にいいのか』と悩みながら手探りで授業に取り組んでいるのでしょう」(Aさん)
「街の探検」もタブレットで撮影するだけ……
子安氏は「個別最適な学び」が主にデジタル端末上で展開されることを懸念する。スウェーデンなど世界のデジタル教育先進国で「タブレット端末に依存した学習は、対人コミュニケーションの総量を減らす」という論文や関係機関の公式見解が出ていることがその理由である。
「タブレットでの検索に依存した学習の最大の問題点は、直接の社会現象に積極的に交わっていかなくなることでしょう。ある小学校の先生から聞いたのですが、小学3年生の体験学習で『街の探検』というものがあります。実際に地域の商店や食品スーパーに赴いてどんな商品が売られているのかを体験することが目的ですが、今の児童は手持ちのタブレット端末で写真と動画を撮ることに終始してしまうそうです。自分の眼で売り場や商品を見たり、店員さんにどんな商品が売れているのか聞いてみたりする児童が少なくなったのです」
「子どもにとって『体験』とは五感をフルに活用して、人とコミュニケーションを取ることではじめて心に残っていくものです。これを『とりあえずレポートに載せるために写真を撮っておこう』とするのは教育というより、やっつけ仕事というか、ただの作業に堕落しています」(子安氏)
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