3年で100倍超に 東京で「防災対応マンション」登録数が急増でも「手放しで喜べない」理由とは
透ける予算バラマキによる「実績作り」
件数よりも肝心なのが、ハード/ソフト対策の実施状況である(次図を参照)。
実は登録マンション652件のうち、「ハード対策」を講じているのは93件のみで、3日以上稼働できる電源を持つマンションは53件しかない。
一方「ソフト対策」は646件の登録はある。登録マンションの実に99%がマニュアル策定や防災訓練を実施している計算になる。
これは言い方を変えると、登録マンションの実態は「汗をかけばできる」取り組みが中心ということだ。
東京都の補助を活用すれば、簡易トイレや発電機なども安価に手に入る。町会と連携すれば負担ゼロで資器材を揃えることも可能である。
結果として登録件数は急増した。しかし、厳しい見方をすれば「予算バラマキで集めた登録」という側面もある。
主な補助金は3つ。都庁HPによると、(1)防災備蓄資器材(上限66万円/補助率3分の2。町会等と連携し合同防災訓練を実施する場合は上限100万円まで全額補助)、(2)非常用電源を設置(発電機が上限1500万円/補助率2分の1、蓄電池が上限1316万円/補助率4分の3)、(3)浸水対策設備(上限75万円/補助率2分の1)となっている。
東京都財務局の資料をあたると、2023年度に0.9億円で始まった補助制度の予算は、以降毎年3億円ずつ増えている(次図を参照)。
内訳をみると、補助金は通常分(補助率2/3)は毎年1億円、地域連携分(補助率100%)は2024年度以降1億円の予算がついている。
2024年度は補助金だけで2億円。登録399件で割れば、1件あたり50万円相当の税金である。
この構図は、マイナンバーカード普及策と似ている。大量の税金を投じ、制度利用を広げているというわけだ。
「見せかけの防災」との見方も
制度を見直し、名称を変え、補助金制度の導入によって、登録件数は一気に増えた。しかし、肝心の“とどまる力”、すなわち災害が起きた際にその場で暮らし続けられるマンションは本当に増えたと言えるのか。
現実には、登録物件の9割以上がソフト対策を講じているが、非常用電源が3日以上稼働する物件は、全体のわずか8%にとどまる。見せかけの防災、名ばかりの安心になっていないだろうか。
「東京とどまるマンション」が、単なる税金のバラマキに終わるのか。それとも、都市防災の実効性をともなった制度に育つのか――。問われているのは、「とどまる」という言葉の“本質”である。
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