「コスパやタイパだけを求めて生きたくない」 中西保志がアルバムを「BONUS TRACKs」と名付けたワケ
第1回【ずぶ濡れで歌った真冬の一日から30年 中西保志「最後の雨」が90万枚ヒットになるまで】のつづき
7月23日に、20年ぶりのオリジナルアルバム「BONUS TRACKs ~最後の雨2025」を発売した中西保志(64)。サブスクリプションが全盛の時代にあっては、タイトルに冠した「ボーナストラック」という言葉は忘れ去られていそうな感もあるが、あえてそれを複数形にして使った。その理由とは。
(全2回の第2回)
【写真】2012年から「大・文化祭」を開催 聴覚にも視覚にも訴えるステージだ
錚々たるアーティストにカバーされた名曲
前川清や倖田來未、杏里、つるの剛士、EXILE ATSUSHI、Ms.OOJA、Acid Black Cherry、島津亜矢、JUJU、クレイジーケンバンド、加藤和樹、五木ひろし……。「最後の雨」をカバーしたアーティストを挙げれば錚々たる名が並ぶ。前川や五木など、中西よりキャリアのあるアーティストもいるが、カバー当時には若かった人も多い。テレビの企画で乃木坂46の一ノ瀬美空と一緒に歌ったこともある。キーが違いすぎる心配もあったが、一ノ瀬が中西に合わせ、自分とは違う角度から曲を愛してくれていると感じ「感動した」という。
「いろんな人がいろんなところで歌ってくれているのはありがたい限りで、光栄なこと。この曲を日本のAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)という側面で聴いてくれる若い人が多いですね。特に、路上でギターを弾き語りする人なんかはそうだと思う。でも歌詞を見ると、どちらかというとバリバリの石川さゆりさんや八代亜紀さんのような世界観です。そういうドロッとした面を意識するのは、僕らと同世代かもっと上なのかな」
1992年発表のオリジナルに加え、2005年、2007年のバージョンも存在するが、そうした若い感性に対する意識もあってか、今回のアルバム収録版では、AORの方向に強く振ったサウンドに仕上げられた。近年のライブで共演しているサックス奏者のユッコ・ミラーがレコーディングに参加したことで、よりその印象は強まる。カバーされ続けたことで過去の曲にならずに聴かれてきた「最後の雨」は、もはや「相方」のような存在だという。
「“子ども”というよりは相方ですね。いろんな(アーティストの)ところに行って、こちらは気楽に『好きなようにやってくれ』と思うような。僕とのコンビではあるけれども、バラの仕事もある。時々コンビを組んでは、また一緒に仕事するというような。『いろんなところで大切にされてエエな、君は』みたいなもんですかね(笑)」
今回のアルバムの出発点においてもユッコ・ミラーの存在が大きかった。
「2023年にフリーになったのですが、翌年のBSの番組に呼ばれた際に、ユッコも出ていたんです。旧知の間柄なので挨拶したところ、ユッコが所属するキングレコードの担当者に紹介されました。フリーだったので『それならうちで企画を作れるかもしれません』というところからアルバムは始まりました。瓢箪から駒、という感じで、人との縁を感じます。ユッコには焼肉でも奢らないかんな、という感じですね(笑)」
「大・文化祭」で紡いだ縁
2012年から「大・文化祭」と銘打ったライブを開催している。洋楽、三味線に合わせた民謡・浪曲、ゴスペルの「第九」を聴かせたりと多彩な企画で、それぞれのコンセプトにあわせて衣装も変えるという、聴覚にも視覚にも訴えるステージになっている。当初年1回だった開催は、近年は年に2~3回と増えてきた。
「“自由な発想で歌う”というコンセプトです。始めた当初は事務所に所属していましたが、迷惑をかけないよう、チケット販売などは、知り合いのミュージシャンに声を掛けて手伝ってもらいながら自分でやりました。一般の人が見たらびっくりするでしょうけれど、ファン向けに始めましたから。プロ野球選手のファン感謝デーみたいな感じといえば、わかってもらえるでしょうか(笑)」
この「大・文化祭」には、ゲストとして中西圭三や佐藤竹善も登場。時代を歩いてきた“同志”として通じ合うものがあり、今回のアルバムでも「あずさ2号」(中西圭三)、「ジョニーの子守唄」(佐藤)で息の合ったデュエットを聴かせている。
「レコーディングは本当に楽しくて仕方なかった。ほかにも澤田知可子さん、山根康広くん、杉山清貴さん、宝塚出身の真園ありすさんがゲストで参加してくれました。杉山さんとは、ギター1本でともに歌ったのですが、一発録りで痺れましたよ。僕らが深く積み重ねてきたものを、同じ時代を生きてきた人には分かってもらえるかな」
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