「コスパやタイパだけを求めて生きたくない」 中西保志がアルバムを「BONUS TRACKs」と名付けたワケ

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アルバムタイトルの意味

 かつてCD販売が全盛の頃、「ボーナストラック」といえば、リスナーへの感謝なども込めつつアルバムに入れられている曲だった。

「タイトルは、そんなボーナストラックだけでアルバムを作ったらどうなるか、という思いが一つ。一方でネガティブな話にもなりますが、今はCDが売れないというより、CDプレイヤーを持つ人すら激減しています。スマホなら、サブスクでもストリーミングでも簡単にアクセスして興味ある曲だけを引っ張り出して聴くことができる。だから『ボーナストラック』の概念そのものがないんです」

 アーティストがアルバム全体で伝えたいこと、という概念そのものも崩壊しつつあるということだ、という。

「それは恐ろしいことです。確かにサブスクなどのほうがコスパもタイパもいいとは思うけれど、そもそも音楽ってコスパやタイパで測るもの? という疑問が僕にはある。効率を追い求めるがゆえに失われるものは何なのか。暗闇の中で2時間かけて観る映画は、タイパなどとは対極の位置にある。美術館で行列を作らせ、ほんの1~2分見ただけで、何かを得た気にさせる。作品のそういう力に憧れるんです」

 だからこそ、本来はアルバムを曲順通りに最後まで聴いてこそ成立する「ボーナストラック」という概念を大切にしたい。今回のアルバムも、できればCDを通して最後まで聴いてほしいという願いを込めた。

「LPの時代にはさらにA面、B面を裏返す必要もあった。確かに手間でしたが、好きな曲を引っ張り出して聴くだけでは味わえない広がりや潤いがあった。コスパやタイパだけを追い求める世の中で生きていきたくはないんです」

残せるだけ残したい

 今後5年のうちに、そんな思いを形にしたアルバムを残せるだけ残したいという。

「今回、音楽をやり続けている素晴らしい人たちと一緒にやれたのはありがたかった。すでに達成感がありますが、さらにやっていかないと。アルバム全体に込める思いが伝わるような、パッケージという形は残してほしいし、残していかなくては」

 自身を「声基準の人間」と称する。

「いい声が出た瞬間に、気持ちの良い体内物質が出るんです。それを感じたいと思っているから歌い続けているんです」

 それが凝縮された新アルバム。「最後の雨」をはじめとする11の「ボーナストラック」を最初から最後までじっくりと聴きたい。

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 第1回【ずぶ濡れで歌った真冬の一日から30年 中西保志「最後の雨」が90万枚ヒットになるまで】では、デビューのきっかけとなったテレビ番組や、「最後の雨」がヒットするまでの軌跡などについて語っている。

デイリー新潮編集部

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